コード・ブルー -Blue steelyard 6-

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(白石)

まだばくばく言ってる心臓を宥めつつエレベーターに乗ると、そこには新海先生の姿があった。



「おはようございます」

「おはようございます」



目的の階を押してから、私はそっと口を開く。



「天野奏さん。

無事手術終わって良かったですね」

「そうですね…」



新海先生にしてはめずらしく、少し歯切れが悪いように感じて見つめると、彼は小さく笑う。



「いや、ちょっと手に震えが残ってしまったから」

「そうですか…」



あの子はそんなこと、ひと言も言わなかったのに。



むしろ、話そうとしなかった────。



「腫瘍は完全に切除したし、命は助かったんだからって、ご両親は納得してくれてます」

「…奏さん本人は」



そう聞いてしまってから、しまったと後悔する。



踏み込みすぎるのは良くない。



「あれは誰がやっても、結果は同じでしょう。

…香坂も、よくやってくれました」



初めてエレベーターで会ったときも思ったけど、やっぱり新海先生って、Aの、こと…。



「じゃ」



そう言って遠ざかっていくNeurosurgery────脳神経外科とプリントされたスクラブを見つめながら、私には返す言葉が見当たらなかった。



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(藍沢)

あいつは、よく忽然と姿を消す。



その姿は急に雲隠れでもしたかのように消えて、気がつけば自分達のそばに戻ってきている。



小児科の、あのピアノがある部屋の前。



小さい背が、いっそう弱々しく見えてしまう。



その肩に手をやると、弾かれたように顔を上げる。



何も言わずに目線を戻した彼女と俺の目に映るのは、震える手を鍵盤に置く天野さんの姿。



俺達が入ってきたことにも気づかず、ただじっと自分の手を見つめる彼女に、そっと声をかける。



「……すまない」



Aと同じように顔を上げて俺を見上げる。



「元どおり、ピアノを弾けるように出来なかった」

「大丈夫。

リハビリ頑張るから。

…A先生もそんな顔しないで、らしくないよ」



そう言われたAは、俺の横で情けない顔をしていた。



先ほどまでのスタッフステーションにいたのは本当に彼女かと、疑いたくなるような顔で。



「ものすごく頑張れば、前みたいに弾けるようになるんだよね」

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