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(香坂)
────……ねむい。
寒いだとか、冷たいという感覚はもうあまり感じない。
横峯先生が懐中電灯を片手に患部を照らしながら、必死に私を抱きしめている。
私は私で、残った意識の欠片を繋ぎ止めるように、両手を握りしめていた。
「大腿動脈触れてます。
…指示ください」
『蹊靭帯から3センチくらい、神経を巻き込まないように結んで。
止血ができるギリギリのテンションで』
「はい。
ネラトンカテーテルください」
灰谷先生の要求に合わせて、横峯先生がカテーテルを渡す。
サテンスキーの先端が患部に入り込む激痛に、守口さんが私の置いていた左腕をがっしりと掴む。
その痛みに、意識が戻る感覚があった。
視界にかかっていた霧のようなぼかしが、晴れていく。
「っ、あ…」
『灰谷先生?』
「す、すみません、手が震えて、滑って少しずれてしまって…」
大丈夫だよ、灰谷先生。
────動け。
いまだけでいい、ほんの少しでいい。
私の身体、動いて。
────動け動け動け動け!
「…っく!」
「えっ、香坂先生!?」
『A…!?』
全身の固まった筋肉という筋肉に力をこめて、鬱陶しい酸素マスクをずらして、私は驚く横峯先生と白石先生の声を聞きながら、そっと灰谷先生に近寄る。
その震える手を、上から押さえた。
「え…」
「大丈夫…これくらいの誤差なら修正できる」
するりと右手を微弱な力で引っ張れば、血管に引っかかりそうになっていたカテーテルが手元に抜けてくる。
「ゆっくり…そう、そのまま」
「…、はい」
そのときの私の視界には、ただ患部の血管しか目に入っていなかった。
目を開いて、瞬きもせずにカテーテルを輪の中へ通して縛ったのを確認して、灰谷先生が遮断する。
それと同時に、私はするりと彼の手を離した。
『…どう?』
横峯先生が後ろにひっくり返りそうになった私を支えながら、出血を確認する。
おびただしい量の滴っていた音が、止まった。
「出血、止まったみたいです…!」
『良かった…。
壊死が進まないように足全体を冷やして。
それで2.3時間はもたせられるわ』
「はい!」
嬉しそうに返事をした横峯先生と、心底ほっとした様子の灰谷先生を見ながら、私はふたたび靄がかかり出した視界で小さく笑う。
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yui - いつも楽しく読ませていただいております!単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ(ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです(笑)突然のお願いですみません!これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます!いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます!またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです!)白石先生との2人のシーンが欲しいです!できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは!いつも作品見させてもらってます!リクエスト?意見?なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません!これからも頑張ってください! (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月22日 0時