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────ガシャァン!
「冴島さん!?」
「…っ!?」
ステンレス器具の落ちる音、次いで人の倒れる音と雪村さんの声に驚いて顔を上げれば、冴島さんが仰向けになって倒れていた。
「はるちゃん!」
思わず処置の手を止めて、彼女に駆け寄って膝を降り、頭をその上に載せる。
「う…ぁ…っ!」
ナース服の太ももの内側あたりに、血が滲み出していた。
────まさか…。
「…はるか?」
「っ、美帆ちゃ…、緋山先生!」
藤川先生の声に悪い方向に逸れていた意識が戻って、私は緋山先生を振り返る。
「私が診る、エコー!
Aは戻って」
「お願い…。
────藤川先生」
「サンキューな、香坂。
はるか…!」
藤川先生と緋山先生に冴島さんを預けて、私は患者に集中しようと意識を切り替えようとする。
冴島さんのお腹をエコーで診ていた彼女が、ぽつりとこぼした。
「まずい、娩出が始まってる」
「え?」
「…っ、なんで…?」
娩出────羊水や胎盤を含め、赤ちゃんが出かかっていること。
────いま始まってるんだったら、分娩室は…。
私の予想どおり、緋山先生は分娩室まで間に合わないと呟く。
「処置室空いてる?」
聞かれた雪村さんは、いまの状況に狼狽えていた。
問題もない、尊敬する先輩がこんなことになってしまったら、私だって混乱する。
でも、こんなときだからこそ、必要なのは落ち着くこと。
「────しっかりして!」
「……はい…、空いてます…!」
緋山先生の一括に、少しは正気を取り戻した様だ。
「そっちの初療ベッドで運ぶわ」
「藤川先生もこっちはいいから行って」
白石先生の言葉に、私も目で行って、と合図を送る。
「いくよー、1.2.3!」
そのまま運ばれていく冴島さんを思わず目で追いかけてしまう。
────落ち着け、焦ったって何も変わらない。
むしろ目の前の患者でミスしたら、意味がない。
────医者の重要な仕事ひとつ、
痛みを取り除くこと。
────そのために医者は勉強し、あらゆる手段を講じる。
「…お前達は自分の仕事に集中しろ」
藍沢先生が、固まっていたフェロー達に呼びかける。
その言葉に、私も深呼吸をひとつ。
────しかし、患者の痛みを正確に理解できる医者は、この世に1人もいない。
痛みとは、その人でなければ、決してわからないものだから。
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時