short story. -Your name.- ページ36
もしも香坂先生が一般人女性だったら。
そんな彼女と名取先生の、ifstory.
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(名取)
この病院に来て、早くも1ヶ月が経つ。
カルテを見ていると、僕が来るずっと前からこの病院入院している人がいることに気がついた。
香坂Aさん、僕と同い年の女性。
半年前、不慮の事故により唯一の肉親だった妹を亡くされた。
元々身体が弱く、以前から入退院を繰り返していたらしい。
「香坂さんこんにちは、窓開けますね」
昼過ぎに病室に入ると、彼女は本を読んでいた。
そっと顔を上げて、微笑んでから会釈する。
さらりと、薄茶の髪が細い肩からこぼれた。
Aさんは、おもむろにノートを広げるとシャーペンを走らせ始める。
俺はベッドのそばの椅子に、静かに腰を下ろした。
かたん、と音を立てて、ノートが俺に向かって立てかけられる。
【フェローさん、大変ですか?】
Aさんの桜色の唇が、声を紡ぐことは無い。
心因性失声症────精神的ショックで、頭では話したいのに声が出ないという病気だ。
「うん、相変わらず患者は多くてさ。
まぁ指導医の先生が来てくれたんだけど、その人がすっごい優秀だから、なんとか回ってる」
ぱち、ぱち。
長い睫毛にふたたび隠された薄茶の瞳は、何を思うのだろう。
【もしかして、脳外科の藍沢先生ですか?】
「え、知り合いなの?」
あの先生どんだけ顔広いんだよ…。
ふるふると首を振ってから、Aさんはまたノートを立てかける。
【白石先生と緋山先生から何度か聞いたことがあるんです】
「へぇー、そうなんだ」
筆談。
これが僕と彼女の、会話の仕方。
全然苦にならないし、むしろもっとたくさん、話していたい気分になる。
ふと時計を見て、慌てて席を立ち上がった。
「あー、ごめん、もう行くわ。
夕方にまた来るから」
Aさんは、にっこりと笑って頭を下げた。
それを見届けてから病室を飛び出す。
誰もいなくなった病室に、夏の空気が入り込む。
「…………────せん、せ…」
それは、幻か、夢か、それとも。
Your name.-Fin-
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁
短いあとがき。
この設定、書いててめちゃくちゃ楽しかったです。
short story. -眠りから覚めて-→←短編あとがきと少しお知らせ。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです! (2017年9月23日 11時) (レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです! (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます!伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね!!リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する?みたいなものが見たいです! (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました!4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです!又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月8日 10時