27 ページ31
「…とにかく救いたかったんだ」
「え？」
「藍沢先生…」
Aの気持ちを代弁するかのように、俺は言葉を紡ぐ。
「彼女には命を救う方法がある。
そして俺たちは、その医療を提供することができる」
Aはただ、じっと俺を見つめていた。
その瞳は、不安の色で彩られている。
「後で嘘つきと罵られようと、代償を払わされようと構わない。
────彼女が生きてる方がいい」
「……っ」
その言葉に、小さな、あたたかい手がそっと俺の指先に触れたのを感じた。
「……新海先生？
あまり藍沢先生を責めないで。
私にも責任があります。
責任と代償なら、この腕を投げうってでも背負う覚悟なら────とうの昔にできています」
「香坂…」
この腕を、それはつまり、彼女が自分の医療人生をかけて、天野さんを救うつもりでいること。
「……いつからだろうなぁ。
医者が患者に、大丈夫だと言ってやれなくなったのは」
新海の言葉を最後に、エレベーターは目的の階に降りるまで、沈黙に包まれる。
────かと、思われた。
新海のPHS端末が着信を告げる。
「はい。
────わかった、すぐ行く」
「奏ちゃん、何かあったんですか？」
Aが心配そうに尋ねる。
新海は早口に答えた。
「あぁ、まずいかもしれない。
お前たちも来てくれ」
「わかった」
エレベーターを降りて真っ先に駆け出したAの後ろ姿を、二人で追いかける。
「は、香坂先生って足速いのな」
「恐らく救命一だ」
そんなことを言いながら手袋を嵌めて、天野さんの病室に駆け込む。
彼女は、目を見開いて大きく痙攣を起こしていた。
Aが反対側に回ったのを確認して、俺は天野さんの手首を抑える。
「奏ちゃん、聞こえる？」
新海が彼女の瞳孔をペンライトで確認して、硬い声音で俺たちに告げる。
「まずいな…脳圧亢進が限界まで来てる」
「────緊急オペだ」
新海から酸素マスクとバックを受け取りながら、Aの瞳に強い光が宿る。
「────いけるか」
バックを揉みながら、彼女は静かに頷いた。
「こんなところで────死なせやしない」
オペ室へ連絡をとる新海を横目に、俺はこれから控える大手術に、わずかながらの緊張を覚えていた。
それは、ここにいる二人も同じはずだ。
────救おう、この命。
自分たちの、すべてを懸けてでも。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3694人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです！ (2017年9月23日 11時) (
レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです！ (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます！伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね！！リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する？みたいなものが見たいです！ (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました！4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです！又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月8日 10時
