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(香坂)
そのまま踵を返そうとした私の前に、逞しい腕が回される。
その腕に抱きすくめられたら、私の壊れかけだった心は、そのぬくもりを求めていたかのように、胸の奥を締めつけた。
「……言っただろう。
無理は、するな…」
「…っ」
黙って伏せた瞼の反動で、私の頬を涙が滑り落ちる。
────離れるって、決めたのに。
身体は、心は、彼のぬくもりを待ち望んでいたかのように涙があふれ出した。
────はやく、とまって。
少し落ち着いた。
だから早く、離れないと。
このぬくもりに、甘えてしまうから。
────耕作に、迷惑がかかるから。
「ありがと。
……もう、大丈夫だから」
「お前の涙を、俺のぬくもりで止められるなら、いつでもこの腕の中に来ればいい」
────ばか、なんてこと言うの。
「……ねぇほんっと、ずるいよね」
「なんとでも言え。
…忘れようとした俺が、馬鹿だった」
とくん、と心臓が跳ね上がった。
私を拘束していた腕に、力がこもる。
「離れることが、お前の幸せだと思っていた」
────恋は一度標的をロックオンしたら、離さないものなんだからね！
あぁ、学生時代の友人の言葉が、こんなときだけ鮮明に蘇る。
「────お前の涙を止めることができる人が、お前を泣かせているなら、離れた方がお互いのためだと、無理やり閉じ込めた」
ほんとにどうしたの、いつもそんな情熱的になんて話さないでしょ？
そう言いたくても、私の口はそれを許さなかった。
一度止まったはずの涙が、あふれて止まらないのだから。
「……向こうにいる間に、忘れようとした、の。
でも…っ、必死で忘れようとすれば忘れるほど、頭から離れてくれなかった」
────頑固ね、誰かさんと同じで。
するりと腕をほどいて、もう一度耕作と向き合う。
「……ちゃんと話そう。
お前が言いたくなってからでいい。
過去のこと、病気のこと、────これからのこと」
ああ、やっぱりあなたは優しい。
「……ごめん…。
もう少し、落ち着いたら、全部話すから」
それから医局に着くまで、私たちの間に会話はなかった。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁
作者です。
少しは進展できたかな…？
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです！ (2017年9月23日 11時) (
レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです！ (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます！伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね！！リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する？みたいなものが見たいです！ (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました！4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです！又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月8日 10時
