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(白石)
粗方の作業を終えて医局に戻ると、Aがソファの上でタオルケットを肩からかけて、膝を抱えて座っていた。
いつも綺麗だと思う薄茶の髪は無造作にほどかれていて、彼女がどんな表情をしているのかは分からない。
藍沢先生は自分の席で、暁人くんの診断書の表示されたパソコンの画面を、ただ見つめていた。
「…元気だして」
そう言って、Aの顔の前にアイスココアの缶を差し出す。
そろりと顔を上げた彼女の目元は少し赤くて、泣いたなと思うのと同時に、このことを藍沢先生は知っているのかと心配になる。
ちらりと彼のほうに視線を走らせると、察しのいい彼女は苦笑して首を振った。
────ってことは、Aがひとりでいたら藍沢先生が来て、私が来るまでこのままだったってことか。
「……ありがとう、恵ちゃん」
軽く頭を撫でてやると立ち上がって、タオルケットを羽織ったまま後ろを着いてくる。
そうして私の隣の自分の席に腰を下ろして、かちりとプルトップを白い指が開けた。
「……悔しいね、暁人くん」
ぴくり、と彼女の瞼が震えた。
ココアに口をつけたまま、黙ってうなずく。
そこで藍沢先生が、ようやく口を開いた。
「移植医療は難しいな。
…救う方法が分かってるのに、臓器がなければその医療を提供することもできない」
「そうだね。
…助ける方法があるのにね」
Aは何も言わないけど、きっと私たちよりずっと悔しいと思う。
フェローのときから、そうだったから。
私たちの間に沈黙が落ちたとき、どんっと低い何かが爆発するような音が聞こえた。
Aがふっと外の方へ目を向けて、ぽつりと呟く。
「花火…そっか、今日だった」
「上の階なら見れるんじゃない？」
「ほんと？」
私の言葉にきらきらと目を輝かせていると、本当に子どもみたいに思えてくる。
彼女はタオルケットを自分の椅子の背もたれに放り出して、この重たい気持ちを吹き飛ばすような軽い足取りで医局から出ていった。
パソコンの画面から目を離さない藍沢先生に、小さく笑って催促をひとつ。
「…行ってあげないの？」
「……あいつらしい」
彼は軽く息をついて肩をすくめると、席を立ち上がって彼女のあとを追いかけるように医局を出る。
────あんな素振りしてたけど、本当は心配してるくせに。
素直じゃないなぁ、特に旦那様の方はね。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです！ (2017年9月23日 11時) (
レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです！ (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます！伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね！！リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する？みたいなものが見たいです！ (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました！4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです！又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月8日 10時
