5 ページ6
数日後、Aの回復力はやはり衰えるところを知らず、ベッドのリクライニングを借りて上半身を起こすことができていた。
それでも────左足と右腕の骨折、そして椎間板ヘルニアだ、相変わらず重症なのは変わらない。
少しずつではあるが食事も取れているようで、新海と京と、ようやく肩の荷が降りた気分に浸っていた。
昼にとれた休憩時間、昼食を早めに切り上げて彼女の病室に向かうのが、最近の日課になっている。
今日は先客がいた────白石だ。
「……A…、ごめん。
私、貴方の医師人生を奪いかけた。
私があのとき、下に下ろさずコンコースの患者を診てもらっていたら、こんなことには…！」
悲痛な面持ちでそう続ける白石の言葉を黙って聞いていたAは、ふっと苦笑を浮かべる。
「…謝らないで。
現に私はいまここにいるし、医者だってやめずに生きてる。
それじゃだめ？」
「……Aは、いっつもそうやって、笑うのね」
右手は包帯で吊っているため動かせないので、左手だけを白石にのばして、首元にするりと抱きつく。
「……ずっと気にしてたんでしょ？
もう…変わらないなぁ」
「誰の、せいよ…」
「うん。
…────ごめん」
小刻みに震えだした白石の背を、その青のスクラブを撫でる姿を、入り口からじっと見守る。
「あれ、今日は行かないわけ？」
「…たまには、な」
隣にひょっこりと現れた緋山は、俺の視線の先をたどって、あぁと納得がいったように頷いた。
「白石のやつ、ずーっと黒田先生のことと重ねて引きずってたからね。
心ここにあらずって感じで。
…きっとAも分かってるんだろうけど」
「あぁ。
…そうだな」
心に残った深い傷は、完全に癒えることはない。
けれど。
その傷口が少しでも塞がれば、それでいいと思える。
そして、それができるのは。
────ほかならぬ、仲間の存在だ。
しばらくして顔を上げた白石が、俺達の視線に気づいてはっとこちらを振り返る。
泣き腫らして赤くなった目元を緋山にからかわれながら、彼女達はICUを退散した。
ふたりを見送っていたAに、そっと近づく。
俺に気がついていた彼女は、ふわりと微笑んだ。
「お疲れさま」
「あぁ」
そんな言葉のやりとりさえ、懐かしく思える。
点滴やモニターをひととおり確認し終わると、それを見計らって彼女が口を切った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5648人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りりり(プロフ) - とても楽しませて頂いております。ひとつ気になったのですが、32ページの副題「At the Xintiandi.」だと上海の新天地という地区を指してしまうのではないでしょうか。意図されての事でしたらごめんなさい。 (2018年9月17日 8時) (
レス) id: 539d09e6a1 (このIDを非表示/違反報告)
ffchr09(プロフ) - もう読み終えているのに読み返したくなります。私も秋生まれ天秤座なので、作品にのめりこんでしまいました。お忙しいと思いますが、劇場版も楽しみにしています。 (2018年9月16日 14時) (レス) id: 3038f6a4cb (このIDを非表示/違反報告)
憂依 - 2日間で読み込んでしまいました。読み進めてくほど、感動しました。雰囲気に浸りたくてBGMはずっとHANABIを聴きながら...笑 素敵な作品ありがとうございました。劇場版...お忙しいとは思いますが、楽しみにしてます。 (2018年8月15日 8時) (レス) id: 8dc691da23 (このIDを非表示/違反報告)
S - 最高に面白い作品をありがとうございました！香坂先生の続きのお話しが是非是非読みたいです！香坂先生ロスで泣けます。素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2018年8月5日 10時) (レス) id: 223a468b93 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - 最高の作品でした！ (2018年7月1日 1時) (レス) id: 53269475bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月27日 0時
