-15日目- ページ11
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(藍沢)
「…どこも問題はないな」
俺のその言葉に、ぱあぁっと花が開くような効果音が聞こえそうな勢いで顔を明るくさせたAは、どこにそんな力があったのか、驚いたことに自力で上体を起こしてみせた。
「おい、まだ大人しく…」
「はるちゃん、車椅子、お願いします！」
「はいはい、慌てないの」
冴島にほどよく宥められつつ、喜びが隠せないのか、先程から小さな頭が揺れ動くたび、夏よりのびた髪がさらさらと入院着の上で踊っている。
そんな彼女に、苦笑混じりでため息が漏れた。
やがて用意された車椅子にもスムーズに移れたAの膝の上に、彼女の私物であるブランケットをかけてやる。
いくら院内といえど、この頃一気に気温が下がったのだ、気を抜くわけにはいかない。
「行くか」
「運転お願いね」
目指すは中庭、あそこなら、静かな空間でゆっくりと話に花を咲かせられるだろう────────。
「こうさかせんせー！」
「はぁーい、久しぶりだね。
包帯取れたんだ、良かったねぇ」
「せんせぇ、だいじょぶ？」
「うん。
早く治すから、またみんな遊んでくれる？」
「いいよー！」
────と思っていたのは、俺だけだったみたいだな。
中庭に行く際に通るプレイルームの近くで、小児科の子ども達に捕まった。
わらわらと車椅子の周りに群がる彼らへ、嫌な顔ひとつせずに、にこにこと笑いかけるAに、さすがに素通りするわけにもいかず。
「せんせ、包帯、まだとれないの？」
不安そうな顔で子どもたちが見つめるのは、入院着では隠しきれない、骨折した右腕を吊っている三角巾と、大きなギプスの巻かれた右足だった。
見ているこちらも痛々しく、本人も見舞いに来る人の目を気遣って、なるべく布団の中に隠しているのだが。
────今日ばかりは、な…。
どう答えようか考えあぐねていると、俺より早くAが口を切った。
「……もう、傷は痛くないの」
「ほんとに…？」
「うん、ほんと。
だからさ、あとは動かせるように、リハビリを頑張らなきゃいけないんだけど…」
そこでうつむいてしまったAの華奢な肩から、うなじを覆っていた薄茶の髪が滑り落ちた。
「…A？」
そのときだった。
「それくらいにしておいてあげなよ。
先生、困ってるよ？」
鈴を転がしたような、Aのものとはまた違う、凛とした声が廊下に響いたのは。
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りりり(プロフ) - とても楽しませて頂いております。ひとつ気になったのですが、32ページの副題「At the Xintiandi.」だと上海の新天地という地区を指してしまうのではないでしょうか。意図されての事でしたらごめんなさい。 (2018年9月17日 8時) (
レス) id: 539d09e6a1 (このIDを非表示/違反報告)
ffchr09(プロフ) - もう読み終えているのに読み返したくなります。私も秋生まれ天秤座なので、作品にのめりこんでしまいました。お忙しいと思いますが、劇場版も楽しみにしています。 (2018年9月16日 14時) (レス) id: 3038f6a4cb (このIDを非表示/違反報告)
憂依 - 2日間で読み込んでしまいました。読み進めてくほど、感動しました。雰囲気に浸りたくてBGMはずっとHANABIを聴きながら...笑 素敵な作品ありがとうございました。劇場版...お忙しいとは思いますが、楽しみにしてます。 (2018年8月15日 8時) (レス) id: 8dc691da23 (このIDを非表示/違反報告)
S - 最高に面白い作品をありがとうございました！香坂先生の続きのお話しが是非是非読みたいです！香坂先生ロスで泣けます。素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2018年8月5日 10時) (レス) id: 223a468b93 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - 最高の作品でした！ (2018年7月1日 1時) (レス) id: 53269475bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月27日 0時
