壊れかけのスノードーム

涙をパレットにのせて　ko-chan ページ16

今日は俺にとって大切な日。だってこの世で一番大切で大好きな人にプロポーズをするから。

今日プロポーズをするにあたって半年以上前から計画をしていた。折角の一世一代の大勝負、どうせなら格好よくキメたいと思うのが男ってものだろう。

ただ、俺は周りに言われるように少しポンコツなのだ。格好よくしようとして果たして本当にそうなるのか。

俺1人だと正直不安なので須貝さんや山本さんに相談しながら今日の計画を立てた。…と言っても割とありふれたものになったけど。



＊

『こうちゃん！お待たせ！』

｢ん、あんまり待ってないよ。じゃあ行こっか｣


計画は至って単純。ちょっとお洒落なレストランに行ってそこでプロポーズをする、というものだ。108本の薔薇を渡すだとか色々考えたけど普通にストレートにいくことにした。


『でも今日で3年か、結構続いたね』

｢え、続かない前提だったの！？｣

『人生何があるかわかんないじゃん？』


後特別なことを上げるとしたら今日が3年の記念日ということくらいだろうか。いいでしょこれくらい。少しくらいロマンチックにならないかなって思ったの！



レストランは個室のゆっくり出来そうなところを予約した。雰囲気も落ち着いてるし料理も美味しくてAも幸せそうな顔をしている。


『あ、そうだ。こうちゃんプレゼント！』


と言ってAが俺にくれたのは腕時計だった。


『似合いそうだなって思ってこれにしたんだ』

｢ありがとう！めっちゃ大切にする｣


伝えるなら、プロポーズするならこの流れしかないんじゃないか。…でも、怖くて声が出ない。声が出せない。


『こうちゃん、どうしたの？顔色悪そうだけど…』


あぁ、Aに心配までかけてしまった。でも、俺は伝えなきゃいけない。今伝えなかったらいつ伝えるんだ。男を見せろ、渡辺航平！


｢A｣

『ん、どした？』


俺の声は情けないほどに震えているだろう、でもそれを客観的に見る余裕すら今の俺には残ってなくて。


｢Aのことが大好きです、…俺と結婚してください｣


と言って予め用意しておいた指輪を出す。元々考えていたプロポーズの言葉なんて言えやしなかった。でも伝えたことが今の俺の気持ちの全部だ。


『えっ…』


Aの大きな目には溢れんばかりの涙が溜まっている。え、俺何かしちゃった！？

でも俺の心配とは裏腹にAは、


『うんっ、うんっ…。よろしくお願いします！』


と言って今までで一番の笑顔を見せてくれた。でもその表情に涙は似合わないから俺にその涙拭わせてよ。



涙を拭う権利を頂戴

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