新月の日に ページ5
墨汁でもこぼしたのかと思うほど黒い夜空に新月、そして雨上がりの湿ったアスファルトの組み合わせは最高に気持ちが悪かった。
「足元に気ぃつけて帰れよ!」
『うん、ありがとう!』
現在、夜8時。
私はいつものように仕事を終えると、イレギュラーな格好をして店を出た。
この世界にやってきて初めての雨、そして数年ぶりに履いた長靴。
雨が降った後のカイロの道はとてもじゃないけど、スニーカーでは歩けない。
雨が降らないこの地域には、排水設備がしっかり整っておらず道路は水たまりができているのだ。
『てか、おじいちゃんよく長靴なんて持ってたよね。』
独り言を呟きながら、おじいちゃんに借りた黒い長靴で、子供のように水たまりを蹴る。
"ピシャ"と蹴った衝動でその泥水が自分の方に飛んできた。
それが何故か楽しくて水溜まりのある所を狙って、歩きながら帰った。
心做しか、私の後ろに誰かいるような気がした。
カイロの年間平均降水量は約18mmで、ほぼ雨が降らないため今日のハンハリーリは異様そのものだった。
(※ちなみに東京の年間平均降水量は1528.8mm)
けれど、雨と言ってもずっと降っているわけじゃない。
10分〜1時間程度激しく降って直ぐに止む。
だからカイロの人達にとって、雨は特別なものらしい。
雨が降っていた間も皆、傘は指さずに普通に歩いていた。
『………何か寒っむいな』
そう、こういう異例な日は何か良くないことが起きる。
___そういう予感があった。
凛とした静けさは、星のない重たげな空全体に広がり、歩くにしたがって暗さが増してゆく。
雨が関係するのか否か、いつもより街を歩く人が少ない。
おいおい、どうしちゃったんだよ
私が道を進むにつれて、どんどん人気がなくなっていくじゃんか。
ちょっと、不穏な空気作りすぎじゃない?
心の中でツッコミながら、歩くスピードを早める。
『いや、これは勘違いじゃない』
さっきから薄ら感じていたけれど、誰かにつけられている気がする。
確信はないけど、私の後ろに誰かいる。
DIOじゃない。また違う……誰か
『ま、参ったなぁ』
そうだ、ここを右に曲がって更に真っ直ぐ行くと直ぐに自宅に着くんだった。
私は早歩き……いや、もはやダッシュで路地を右に曲がって家に向かった。
ピシャリ、ピシャリと水溜まりをはじく音が大きく響く。
無事に帰れますようにと、私は何かに祈らずにはいられなかった。
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俺☆ - やばいめっちゃ面白いのにめっちゃ感動してる。何だこれ。 (2023年1月5日 11時) (レス) @page50 id: b2c114123d (このIDを非表示/違反報告)
Earthあーす(プロフ) - あれなんか目がナイアガラの滝になってる (2023年1月4日 18時) (レス) @page43 id: 0fcf2cea39 (このIDを非表示/違反報告)
しらとめ(プロフ) - 面白いのになんとなく泣きそうになってきます (2022年11月28日 17時) (レス) @page35 id: 353a651934 (このIDを非表示/違反報告)
地獄の番人 - DIOの代わりに空条承太郎パイセンとくっついちゃいましょう!!面白かったです。続きを楽しみに待ってます!! (2022年11月28日 1時) (レス) @page33 id: d126292683 (このIDを非表示/違反報告)
ペトリ皿(プロフ) - やばい。展開も何もかもが面白すぎる。 (2022年11月27日 18時) (レス) @page32 id: cbc38767b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:光と慈雨 | 作者ホームページ:http:// http://uranai.nosv.org/gen.php/novel/
作成日時:2022年9月5日 23時