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お昼を食べ終え、午後の仕事に取りかかる。昨日たまった仕事をひとつひとつコツコツと仕上げていくうちにすっかり定時の時間。だけど、ノリに乗ってる今仕上げ切っちゃいたい。伊沢さんに残業の許可を貰って今日は残業していくことに。
あまりに仕事に集中しすぎて、拳くんが私のデスクの近くに来ていることに全く気付かず。
「A！！」
「わああ！な、なに？拳くん…」
「大丈夫？残業してくの？」
「うん、ちょっと切りいい所まで。今日調子いいから出来るところまでやっていこうかなって」
「そう…」
大声で拳くんに呼ばれるまで全く気付かなかった。拳くんは空になったお弁当箱を渡すために私に声をかけてくれたようだった。
「残業してくなら俺も残るよ。戸締りしないとだし」
「ご、ごめん！すぐ終わらす！」
オフィスの鍵を持っている人は限られているから、拳くんが残っていることも多い。今日がその日なのだろうか、私のせいで拳くんまで帰りが遅くなるなんて申し訳なくてとりあえず進めたいところまで一気に仕事を進めた。
「お待たせ、拳くん！さ、帰ろ！」
「はーい」
速攻仕事を終わらせて拳くんに声を掛ける。YouTubeを見ていた拳くんはイヤホンを外してカバンを持って戸締り確認をしていく。残業を社員にあまりさせない社長さんであるため残っているのも私たちだけ。電気を消すと一気に暗くなったオフィスに少し恐怖する。
さっさと帰ろう。そう思って玄関へ急ごうとするも、突然後ろに手を引かれて進みたい方向と真逆の方向へ体が倒れ込む。倒れ込んだ体を拳くんが支えてくれた。私は拳くんに後ろから抱き抱えられる形になり身動きが取れない。
「け、拳くん？」
倒れそうな体を支えてくれたのは拳くんだけど、そもそも手を引いてバランスを崩させたのも拳くんで。彼の行動の理由が分からず尋ねるも返事がない。ただただ、後ろから抱きしめられているだけ。
肩に乗る拳くんの顎が少し動き、言葉を発した。
「ねぇ、河村と付き合ってるの？今日のお昼、手繋いでキスしてたよね？」
「え？！」
手を繋いで、キス？！一体なんのことだ？！全く身に覚えのない出来事だが、何故か拳くんは私と河村さんがそうしたと思い込んでいるらしい。これは、誤解だ！誤解は解いてあげないと、そう思って拳くんの方へ体を向けようにもしっかりホールドされて全く体が動かない。
抱きしめられる力が強くなる一方。心臓の音が変に大きくなっていくのを感じた。
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作者名：ひなた | 作成日時：2021年9月19日 10時
