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〔A〕





流れる泡と水をただ目に写しながら、
人知れず息を吐く。
無事に、緊急オペを終えた。
別にオペ自体に不安があった訳じゃない。
海外(あっち)で経験も、自信も、技術もつけた。それでも。

滅多に感情が顔に出ないタイプで良かったと、
今回ばかりは思う。
アウェイな状況でのオペなんて何年ぶりだろうか。
不安げな態度は、周りを混乱させる原因になる、
なんて分かっていても流石に不安になる。



良い事は、先生…橘先生と、オペを出来た事。
随分と久しぶりに共にオペを行ったけれど…
やっぱり、やり易い。
先を読みやすいと言うか、次にどうしたいか、
どうして欲しいのか。
お互い、空気と手元で分かる。



それに…脳波を見ていた彼。

補助は的確だった。脳波を見ていたと思えば、
次には止血の為の鉗子を差し出してくる。
正直、驚かされた。初対面で、
こんなにスムーズに補助された事なんて無かった。



「どうした、ぼーっとして。」



ふっと横を見れば
橘先生が同じように手を洗っていて。



「すまなかったなぁ、急に。バタバタで。…にしても、相変わらずだな。」



何の事だろうと瞬きを一つする。



「腕を上げてきたのかぁ?流石だなA。」



不適に笑う橘先生は、ちょっとだけ苦手で。
手を拭きながら、そろりと離れる。



『…まぁ、その為に海外(あっち)に行ったんです。』

「そのつれなーい感じも、相変わらずだな。
 Aらしいっちゃあ、らしいけどさ。」



蛇口を捻った橘先生は、急に真面目な顔をする。



「悪いな、本当に。来てくれて、
 日本に戻って来てくれて助かった。」



事情を知らない訳じゃない。
だから、この病院に来た。
でも、捻くれた自分の口から、
素直な言葉は紡げない。



『…別に、向こうで十分学びましたから。』



目が合った橘先生は苦笑して、
変わらないな、なんて。



「よろしく頼むな、A。」

『…はい。』

「じゃ、今日は帰っとけよー?」



背を向けて手をひらひらと振りながら
オペ室を後にする橘先生を見送って数秒。

くるりと振り向いた。

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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時

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