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〔藍沢〕
共に乗り込んだ白車で、バイタルをチェックしつつバッグを揉んでいるAは、どれくらい血を流したのか少しずつではあるが、顔色が悪くなっている様に見える。
Aも分かっているが、言うつもりは無いらしい。頑なに目を合わせようとはしない。
分かっている。この"医者"という概念の塊のようなAは、いつだって患者を優先させる。俺が同じ立場にあったのなら、おそらく同じ行動を取るだろう。
『血圧、心拍数共に問題ない。やはり脳の専門科か、流石だ。』
「…傷は。」
『問題ない。』
間髪入れずに返ってきた返答に眉が寄ってしまう。少しくらい心配したって良いと思うのだが、Aはこちらが踏み込む隙を与えてくれない。
何故こんなにイライラしているのか、自分でも全く分からない。
信用されていないのだろうか、そんな事は無い筈だ。オペの手際も良かったし、昔から俺を知っているかのように、何も言わなくても目と、呼吸で会話できていた。
それなのに、明らかに顔に不調が見えるのにそれを聞かせては貰えない。白石なら、緋山なら、或いは藤川なら良いのだろうか。俺では、いけないのだろうか。
『…藍沢、先生?』
「…何だ。」
『いや、ぼーっとしてたから。何か気になる事でも…』
瞬時に纏う空気が凛として"医者のスイッチ"が入ったのだと分かる。自分の事は後回しで、患者の事を一番に考える。
「いや、患者に変わった様子は無い。」
『そ、うか。』
不自然に言葉を途切れさせたAを見遣れば、目を瞑って元々白い顔を更に青白くさせていた。
「…痛みは、」
『大丈夫。』
俺の言葉を遮るように呟いたAに、再び眉が寄ったのが分かる。ちらりと俺を見て、流石に言いたい事があると気付いたのだろう。比較的柔らかい表情で、緩く頭を振った。
『…分かってる。後で、藍沢先生に診て貰えるから、もう少し頑張れるよ。』
不意に呟かれた言葉に、体温と心拍数が上昇していくのが分かる。顔を隠す物も、遮る物も無い車内で、五月蝿く鳴り響く心音が、Aに聞こえていないだろうかと、柄にも無く焦った事で余計に心配された事のは、俺の心の内に留めて置く。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時