コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ23)

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〔藍沢〕

脳外にいた頃にも救命の話は良く聞いていたし、未だに耳にする事はあるが、大抵の場合救命は良く思われていない。新海や西条先生も言っていた。

"救命は受け入れるだけ受け入れて、捌き切れてないですからね"

"またこっちに押し付けてくるぞ"

俺達が、どれだけ過酷な日々を過ごしながら、患者と《命》と向き合っているのか、知らないからだ。勿論、他の医者だって難しい症例に頭を悩ませたり、どれだけ手を尽くしても助からなかった命を目の前にする事はあるだろう。それでも、現場で"命を天秤に掛ける"なんて事はしない。

それが、どれだけ辛く悲しい事なのか、頭で理解する事と実際にこの手で行うのは、全く違う。助けられる術を持っていても、助けられない虚しさも、分からない。

救命の現状を理解していない医者だからこそ、あの心外の医者の様に"暇"があれば何て言葉が出てくるんだろう。あいつが、Aが聞いていたらどう思ったのだろうか。緋山の様に、怒るのだろうか。

「よう、おはよう。」

嫌な空気の流れる医局に聞こえたのは、ここじゃ珍しい黒のスクラブ。

「…どうした、朝から。」

さっきの事があったお陰でスタッフ全員がピリピリしている。用が無いなら出て行けと、緋山の視線を背に痛い程感じる。

「あの子の手術の事で、ちょっと相談が。」

仕事の話だと分かった途端、緋山の視線が外れたらしい。俺としても、あの子…天野奏の話はしたかった。

「分かった。上に行こう。」

iPadを持って医局を出る際、ICUから戻ってくるAの姿が見えた。入りにくそうにしている所を見ると、どうやら見ていたらしい。

「なあ藍沢。Aも怒るんだな。」

「…どういう事だ。」

「ほら、さっきのあっただろ。あれ、A怒ってたよ。周りの空気が下がるってやつ。あのタイプの方が、一番怒らせちゃいけないタイプかもな。」

さっきの騒動は新海とAも見ていたらしい。大方、新海が引止めでもしたんだろう。

…ちょっと待て。

「…新海。何故あいつの名前を知ってる。」

「え？嗚呼、この前心外の帰りのAとエレベーターでばったり会ってさ。初めましてって挨拶したんだ。あ、Aって何かの体術でも習ってたの？」

「何故聞く。」

「いや、ちょっと。」

「どうせ余計な事でもしたんだろ。」

いやー…あれは驚いた、と肩を竦める新海に一言釘を刺す

「…お前、苦手なやつだと思われてるぞ。」