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・降谷視点
翌日は全員が有給、6人で集まれたのが久々だったこともあり話は深夜まで続いた。大半がAの話になるのはいつものことだが、酒を片手に他愛もない話をして、その内落ちる奴が出始めた。
「A、寝室に運ぶか」
「そうだな」
Aを抱き抱えた松田と共に寝室に向かう。それにしてもよく寝るな、少しも目を覚まさない。
「降谷」
「何だ」
「お前、ちょっと付いててやれよ」
「は…?寝てるだろ、こいつ」
「いいから。あいつらにこれ掛けてくんな」
置いてあった毛布を手に松田は寝室を出て行った。付いてろと言われても俺は何をしていればいいんだ。よく分からないながらAに目をやった。
今回の傷も縫ったと言っていたから、また痕が残るな。着ている部屋着はあまりサイズが合っていないのか肩口まで見えている。首元から肩に掛けては特に大きな傷が多く、その全てを鮮明に思い出せる。
「……ありがとな…助けてくれて」
本人には決して言わない言葉。言ってしまうわけにはいかなかった。その行動を認めてしまうことになるから。けれど、Aに救われた命は数え切れず被害者からは礼状や電話が来ることも度々あった。お前のお陰だ、ありがとうと余計な感情を捨てて言ってやれたらいいのに。
指先で首元の傷に触れた。この傷をAに残した事件は、関わってきたいくつもの事件の中で生死の境を彷徨った数少ない事件の一つだった。皮膚が薄くなり元々肌が白いことも相まって隠しようがない、最も目立つ傷。
「…っ」
「…A……?」
身体が僅かに動き、触れた部分を手で覆う。間違いなく眠っているのに苦しげに寄せられた眉間のシワ。小さく小さく身体を丸めて、その嫌悪感から逃れるように
嫌なのか、触れられるのが。
痛くはなくても、気にならないと口にしても、人に触れられたくない部分なんだな。お前にとって身体の傷は忘れられない事件の記憶だから。
「……守ってやれなくて、ごめん」
起こさないようにその身体を抱き寄せた。あれだけ頼もしく見える背中も今は酷く脆く見える。柔らかく、細く、小さい、愛しくて失えない存在。
平気だ、大丈夫だと言って笑い怒る。本当はどれだけのものを抱えているのか、いつか話してくれるだろうか。
「………いかないで、くれ」
どれも起きているAには伝えられないけれど、俺は何があっても必ず、
お前の隣にいる、この命に誓って。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時