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・降谷視点
次々に到着する警察車両を狙った爆破だった。
それに気が付いていたのは俺たちより先に現場に到着していたAのみ。無線を入れてきた一課の車両は一度目の爆破をもろに受けて動ける状態ではなかったからだ。
車ごと宙に投げ出され、間髪を入れず起こった爆破の後、現場は奇妙な静寂に包まれていた。傍を走っていたはずの緑川や先輩の乗った車も無残な状態で、俺自身も立ち上がることはおろか声を出すこともままならない。少し首を動かすだけで犠牲になった多くの仲間が映る。もう立ち上がれる者は誰もいない、
Aを除いては。
視界の隅に影が映り、それがAだと理解し夢中で脚を掴んだ。犯人が所持する爆弾の数も分からない中、向かうのはあまりに危険すぎる、
「や、めろ…っ行くな、」
絞り出した声はあいつに届いてはいなかった
「…離せ、零」
突き抜けた正義が、他のどんな感情よりも強い意志を孕んで流れ込む、あいつを怖いなんて思ったことはなかったのに、どうして何も言えないんだ、あれは、
人をも殺しそうな、真っ直ぐすぎる正義。
力が抜けAの脚を離した手には生温い感触。血の気が引く、声は出ない、立ち上がれない、でも何とかあいつを止めなければ
走り出す背中に伸ばした手が空を切る
動けるはずのない身体は一直線に犯人へ向かい、ボウガンの矢が肩を貫いても、銃弾を受けてもAは動き続けた。
もうやめてくれ、頼むから
崩れ落ちた犯人を見た、もう立ち上がれはしないだろう、あの目を向けられたのなら。俺の頭は犯人への憎悪よりもAへの畏怖で満ちていた。
犯人を引き渡しても尚、その場に立ち尽くしていたAの足元には夥しい量の血が血溜まりを作っている。どこからなのか特定できない程、その身は血に濡れていた。
「私は大丈夫です、他の人を先に…」
救急隊にそう断りこちらに歩いてきたA。
「大丈夫か、零…みんなも…私がもっと、早く気付けば」
そうじゃない、そうじゃないのに声が、
「私は、大丈夫」
異様な光景に誰もが言葉を失う中、意識を手放しその身体を倒れ込ませるまで、Aは一度も苦痛の表情を浮かべなかった。
“痛みのない世界”
あいつが生きているのはこんなに恐ろしい世界なのか?
そんなこと知りたくなんてなかった。
どうしてだ、どうして、答えろよ、A
声にならなかった号びは涙に変わる。こんなにも、この世界が憎いと思ったのは初めてだ。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時