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「意外やわ。Aが野球雑誌読んでるとか」
「お兄が野球してたから。昔から」
「まじかー。良かったらそれ、読み終わったら貸してもらえへん？」
予想外の申し出にぽかんとした。
土で汚れたスパイクを見て、制服の時よりも高い位置で締められた黒いベルトを見て、柔らかくほほえんだ目を見て、少し逸らして、やっと事態を把握した。
変に空いてしまった間で、貸すのを嫌がっていると思わせたかも、と焦った私は
「ああ、うん、もちろん、ぜひ、いいよ」
と、あらゆる肯定の言葉をかき集めて了承した。
すると今度は正門がぽかんとする番だった。
私がしたように彼も、私の履き潰したスニーカーとか、ひだが取れすぎたプリーツスカートとか、さっきまでまったりしていた目とかを見ているかもしれない、と思うと恥ずかしくなった。
そして、さっきまでそんな視線を浴びせていたことが申し訳なくなってきた。
「あの、正門」
「あ、ごめん。なんかAが思ったより変やったからおもろくてびっくりした」
「そらどーも」
おもしろいなんて大阪人には最高のほめ言葉じゃないか。
もっとも今の私には、穴に入りたい、という感情を膨らませるものでしかないけど。
「よかった」
私が変と言われても怒らなかったことに対してか、少し遡ってホームランを貸すことに対してか、はたまた全く違うことにか。
それは分からなかったけど、とりあえず、よかったらしいので良かった。
「そろそろ行くわ。ほんじゃ、それまた」
「うん、貸すな」
「ありがとう。ほなね、気つけて」
「ありがとう。部活お疲れさま」
「おお。じゃあ」
「バイバイ」
正門はピンク色のノートを手に教室を出て行った。
「かっこいいなぁ」
この呟きが聞こえればいいのに、と思った。
駆け足で出て行った彼はもうすぐグラウンドに出て来る頃だろう。
ホームランを入れたリュックを背負い窓の外を見ると、先ほどより薄暗くなったグラウンドに彼の姿があった。
私も帰るとしよう。
扉の近くを歩くとざりざりと音が鳴った。グラウンドの砂だ。
さっきまで正門がいた証を共有するように、私も負けじと砂を踏んだ。
電気を消し、鍵をかける。
明日にはまた誰かが鍵をあけて、あの窓からグラウンドを見るのだろう。
それが誰なのか、5分前登校の私には知るよしもない。
同じように私が正門とした約束など誰も知らない。
そんな小さな秘密が私の世界を優しくしてくれるのだ。
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三十谷みそ(プロフ) - kkさん» うわぁぁ現場で佐野兄を見れたなんて羨ましいです！自分が書いたものを好きと言ってもらえるのが嬉しすぎて😭これからも楽しく書かせていただきます〜！ (6月26日 0時) (
レス) id: 0083c24134 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - 三十谷みそさんが書かれるお話どれも好きでいつも楽しく読ませて頂いてます！中でも先日あげられた佐野くんの指きりげんまんが好きです❤︎全ツで実際に佐野兄が赤ペンラ持っている姿を見たので情景がお話な浮かび面白かったです！ (6月25日 14時) (レス) id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三十谷みそ | 作成日時：2023年2月2日 22時
