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「とりあえず…保健室行く?」
頭は呆然とするけど
このまま教室には戻れないってことはわかるから
首を縦に降る
保健室には先着の生徒が数人いて
先生はみんな対応中だった
「せんせー、とりあえず体温計借りていいですか」
大ちゃんがあたかも本当の病人のように
扱ってくれるのが救いだった
合わせて私も辛いような演技をする
ビピッと音が鳴った体温計を大ちゃんに渡すと
画面を見ずにそのままケースに片付けて
私の体温部分に37.6と記入した
「結構、熱あるみたいなんで
ベッド借りますー」
先生も忙しいのか適当な返事で
隣の部屋に案内してくれた
「もう今日は帰る?」
「…そうしようかな」
「ん。俺、中間先生のとこ行ってから
鞄持ってくるから」
「5時間目終わったら取りに行くよ」
「いーの、甘えときなよ。な?」
「…ん」
大ちゃんは私のその返事を確認して
保健室を出て行った
中間先生の言葉がループする
婚約者…かぁ
大ちゃんが一緒でよかった
じゃなかったら倒れてたかもしれない
なんか、自分の気持ちだけで舞い上がってて
先生に恋人がいるかなんて考えたことなかった
そりゃいるよね…
あんなにいい人だもん
むしろいない方が
何か問題があるのかと思っちゃうよね
気持ちの整理がつき始めた頃声がした
「A?開けていい?」
「うん」
起き上がって中からカーテンを開けると
今まで見た事ないくらい
眉を八の字に下げた大ちゃんが立っていた
「ん。鞄。
早退の件も中間先生から副担に言ってもらうよう
お願いしてきたから」
「ありがとう」
「帰ろ」
さらっと出された左手
右手には大ちゃん自身の鞄
「え?」
「俺もしんどいから帰る」
「サボり!」
横目で見て、ないわーって顔をする
「げほっげほっ…あーしんどい」
明らかな仮病に
口元が緩む
「いけないんだー」
「熱まで出てきたかも…」
「もう、わかったから…!」
どんなに頑張っても仮病には変わりないのに
一生懸命続ける大ちゃんにふと笑顔になる
「じゃあ、いこ」
保健室の先生に止められないために
あたかも私だけ早退するかのようにして
保健室を後にした
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作者名:裕莉 | 作成日時:2019年5月18日 10時