そばに居るから。 2 (ページ12)

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side涼太

『オーディション参加者は…』

オーディションの開始時刻が迫っている事を伝えるアナウンスが流れ、我に返る。

さっきの男の人が置いてくれた水を手に取ると、冷たさの中にまだ少しだけ温もりがあった。

涼「行かなきゃ、」

グルグルと気持ち悪い感じはなくなってないけど、もらった水を飲むと、どこかすっきりしたようにも思えて。

ぎゅっと拳を握りしめて立ち上がった。

涼「…けど、あれ、」

周りを見渡せば人、人、人。

前も後ろも、右も左も。

涼「っぁ、」

キョロキョロと見渡していると、見覚えのある少しイカつい感じの人と目が合う。

ずんずんと勢いよく近付いてくる相手に、思わず少し後ずさる。

？「来たんや。こっちな、」

涼「…っや！」

いきなり腕を掴まれ、思わず叫んで振り払ってしまった。

涼「ぁっ、ぁっ、ぁ、」

周りの視線が集まるのがわかる。

冷めた目で、痛い視線。

涼「…っ、めんなさっ…」

いたたまれなくなって、走り去ろうとしたその時。

ぎゅっと抱きしめられる感覚。

だけど人の温もりなんて知らない俺には、恐怖の対象でしかなくて。

カタカタと体が震えるのが自分でもわかる。

涼「…やっ…」

？「悪かった、ごめん…大丈夫、大丈夫やから。目、閉じて俺の胸んとこに耳当ててみ」

逃げようともがいても、腕が離されることはなくて、もうダメだと思った。

？「…ん、頑張った頑張った。な？」

ふわりと頭を撫でられる感覚。

耳に触れるドキドキとした胸の音。

暖かいと思った。

俺は知らない男の人に抱きしめられているのに、なんでこんなにも冷静なんだろう。

どうしてこの人の腕の中で、落ち着いたのだろう。

？「コーヒーとココア、どっちがいい？」

2つの飲み物が差し出される。

だけどそんな飲み物、知らない。

ココア？コーヒー？

初めて聞いた。

？「ごめん、知らんやつに渡されても怖いよな」

何も答えない俺にそう言った後、ゆっくりと俺と向き合って。

？「俺、龍友。数原龍友って言うねん。17歳やけど高校は中退してもうてんねん」

そう言って笑う彼を、もう怖いとは思わなかった。

涼「片寄涼太…」

龍「涼太か。お前、俺より年下やんな？さっき高校受験のための参考書見とったよな」

コクンと頷くとおしっ、なんて謎に気合いを入れた彼。

龍「俺の方が兄貴やな。ってことで会場まで連れてったろ」

そう言って笑う彼に、自然と体がついて行っていた。