雨を見てまた、君を想う【太宰治】

第二十四話. ページ25

一年後


『治くん、森さんが呼んでるよ』


そうAちゃんに云われた為、診療室へ足を運んだ


「森さん、入るよ」


返事を待たずして扉を開き、中へ足を踏み入れる


そこにはどうにも項垂れ落胆した様子の森さんが独りぽつんと椅子に腰を掛けて居た


「何してるの、森さん。僕を呼んだ訳は？」


そう云い僕は棚から高血圧の薬と低血圧の薬を取り出し調合する


若しかしたら…若しかしたら此で死ぬ事が出来るかもしれないから


そうして丁寧に混ぜ合わせ口に含む


舌を撫でる様に艶やかに溶け込む薬を胃に入れるも僕の其の命は紡がれた


“


「ようこそ、ポートマフィアへ」


厭らしく唇を歪め嗤う森さん


当の僕は森さんから課せられた任務により、正式にポートマフィアのいち構成員と成った




『治くん遅かったね。大丈夫？』


「嗚呼、大丈夫だよ。僕は之から少し席を開けるね」


『何処へ行くの？私も連れて行って』


「うぅん…余り安全な場所では無いんだ」


『置いて行かないで。私も、私も…っ』


普段は余り表情を変えずに話すAちゃんが何処か悲しそうに云う


「連れて行くと佳いよ、太宰くん」


「森さん…佳いの？擂鉢街だよ」


森さんから危険な仕事では無いと聞かされて居るが其れでも擂鉢街は貧民街同様の土地


Aちゃんの様に身形が佳い子が出歩くとすると必ず危険が伴う


「なぁに、大丈夫だよ。Aちゃんも基本異能は制御出来る。それに…」


森さんが僕にそっと近付き耳元で囁く


Aちゃんは不思議そうに瞳を揺らし此方を黙視して居る


“Aちゃんの力が在ればより円滑に進むよ”


「其れはどういう…｢ずっと室内に閉じ込めて居るのも酷だろう？｣」


云い切る前に森さんの言葉に遮られ圧倒された


こうして僕は、Aちゃんを連れ擂鉢街へ向かった

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