その刀剣、───につき。 (ページ10)

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第×夢ページ10

不意に、眼が覚める。
そこは見知った場所とはかけ離れた場所だった。

窓のないコンクリートの部屋。
天井からぶら下げられたオレンジに近い色の光を放つ裸電球。
無機質で生活感のない部屋。

続いて自分が置かれている状況を把握しようとするけどそれは叶わなかった。
わかるのはベッドの様な物に仰向けで寝かされていて、かつ手足を何かで拘束されているということだけ。

非現実的、かつ非常識的、非日常的な状況に置かれているにも関わらず、不思議と恐怖心は湧いてこなかった。映画の様な状況にいっそ関心さえしていたのかもしれない。

続いてここに至るまでの記憶が曖昧なことに気付く。最後に残っていたのは顔を紙で隠した奴のことだ。声音的に男、きっちりスーツを着込んでいるのに紙で顔を隠している妙な格好だったから記憶に残っている。

頭が妙に痛い。物理的な痛みではないから、多分薬品の副作用だろう。状況から鑑みるに、オレはその変な格好をした奴に連れ去られたってところだろうか。

オレがそこまで考えていれば部屋にある唯一のドアがひとりでに機械音を立てて開く。自動ドアだ。
そっちに視線だけを向けていれば誰かが部屋に入ってきた。白衣を羽織った背の高い男だ。
そいつは一直線にオレのところまで歩み寄ると、オレを見下ろしてにこりともせずにこう言い放つ。

「ようこそ、私の実験室へ。貴様は栄えある私の８９番目の実験台だ」

は？と思わず声が漏れる。
声音は確かに記憶にあったやつと同じもの。
そしてその瞬間、気が付いた。いや、嫌でも目に飛び込んでくるものがあった。

刀だ。抜き身の刀が透明なガラスのケースに入れられて鎮座している。

男は刀の方をちらりと一瞥すると、もう一度オレを見下ろす。目があったことを確認すると、いいかと前置きをして再び話し出した。

「これから貴様は私の手により一度死に、そして新たに高貴な存在として作り変えられるのだ。今のくだらん名は捨てろ、これから貴様の名は８９番だ」

そいつの言葉に思わずカチンときた。
オレの名前は親が唯一残してくれたオレの証明みたいなものだ。くだらないなんて言われる筋合いはない。

けどその言葉をぐっと飲み込む。
今主導権を握ってるのはあいつだ。刺激しても不利になるだけ。

あいつは白衣のポケットから鍵を取り出すと、オレの手足の拘束具を外してみせた。
拘束具はベッドについていたらしく簡単に起き上がれる。

「精々生き残れよ、８９番」

上等だ、やってやる。