10ページ:感傷 ページ10
もぐもぐ、と頰を膨らませながらゆっくりと咀嚼をする相席に座っている女の子を、俺はアイスコーヒーを飲みながら見ていた。
___『…とっても優しい人だった。二人とも』
先程の少女の表情が脳裏に焼き付いて離れない。今まで死にかけていたその表情は、
一瞬だけ哀の色を見せた。
___『お互い、本気で喧嘩することは無かった。私の前では、弱音も吐かなかった』
俺には、その表情が嘘には見えなかった。疑えもしなかった。疑ったら、その子の人生自体を否定してしまうようで。
___『…まだ、死んだなんて…信じられなかった』
この子には、生きる理由というものが欠落しているようだった。
…ああ、この子は奪われたのか。この子の世界を。
普通のこのような年の子供は親が自分の世界のほとんどを占めている。…そこから親を失ったというのなら、知ったのなら…その事実を受け止めたとしたら、一体どれほどの絶望を味わう?
「…」
「ああ、ごめんね。ちょっと見すぎちゃってたか」
さっき注文したサンドイッチを小さく頬張るのを止め、気になったのか俺の方をじっと見てる。…どうやら俺は長くこの子を見すぎていたらしい。俺が窓の外に目を向けると、その子も別の方を向いた。
「…拳」
「え?」
ふと聞こえた呟きに、俺は再びその子へと顔を向けた。
「強く握ってたから、痛くないのかなって」
小さく言われると、俺は震える程力強く握っていた自分の右手に気が付いた。…テーブルの上に乗せてたから、この子の目についたのだろう。指摘されるまでは全く気が付かなかったが、掌を見てみると爪痕が残っていた。
…俺は怒っていたのだろうか。この子の周りを取り巻く環境に。
もしかすると俺の警戒は杞憂で、この子は組織に利用されているだけではないか。
俺はこの子の実験内容については何も知らない。ただ育てろと言われただけだ。
そもそも何故俺が選ばれた?育児ならもっと下っ端を使ったりするはずだ。
…もう少し、調べなくちゃいけないな。実験のことについても…この子のことについても。
「ああ、大丈夫だよ。考え事をしてたら、ちょっとね」
「…」
俺はいつも通り、優しく彼女に微笑みかけた。
…目の前の少女は俺の顔を見ると、何事も無かったかのようにまた遅いペースでサンドイッチを食べ進めた。
___『情はかけない方がいいわ…あの子の為にも、貴方の為にも』
コーヒーを飲み切った時、ふとベルモットが放った発言が脳裏によぎった。
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卵かけご飯の醤油 - みつるさん» ああ、確かに盛者必衰の方が多分内容的に合ってますね。私、てっきり諸行無常も盛者必衰も同じような意味かと思ってて…今ウィキ先生で調べてみました。どうやら意味合いが違うようです…わざわざご報告、ありがとうございます。修正しますね。 (2019年5月29日 19時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
みつる - 49ページなんですけど…諸行無常ってなんとも言えないという意味だと思います。多分盛者必衰の間違いかと…間違ってなかったらすみません(>_<) (2019年5月29日 18時) (レス) id: d6e134e20f (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - すすぎさん» そうなんですか…もしよろしければその私の小説と似ているという小説の題名を教えてくれませんか?出来ればその小説と話が被らないようにプロットを書き直すつもりなので… (2019年5月26日 12時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
すすぎ - あまりにも似てるものがあったので..... (2019年5月26日 11時) (レス) id: 28118ed8c0 (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - ありがとうございます。まさか読みやすいというコメントを貰うとは思っていませんでした…嬉しいです。これからも更新頑張ります。 (2019年5月25日 14時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:卵かけご飯の醤油 | 作成日時:2019年5月17日 15時