君と (ページ12)

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限界ページ12

8月、暑さで目覚める毎日。

「はぁ、あっつい、眠い」

まだ7時前なのにこの暑さ。
出勤時の暑さを想像すると本当に憂鬱。

簡単な朝食をとり、身支度を済ませた。
今夜は原田主任と過ごせるから、服装にも気合が入る。

右手の薬指に、就職して初めてのボーナスで買ったゴールドのリングをはめた。

この指輪を主任が見たって、なんとも思わないことはわかっている。
彼は私に恋人がいるかどうかなんて、気にした事も無い。
これは私の、ただの強がり。

出社後、メールをチェックして、ミーティング。

菓子メーカー、マーケティング部に配属されて3年目。
私はアイスクリーム事業を担当している。
他部署との連携や調整、情報収集等、仕事は多岐に渡り大変だけれど、やり甲斐がある。

『そういえば、原田主任と彩さん、婚約したって噂だよ』

「へー、そうなんだ」

『みんなそろそろかなって思ってたよね。社内公認の2人だし、確かもう3年位になるよね』

社食でランチ中、噂好きな同期の奈緒が言った。

「そうだっけ？」

『もーみおは本当に冷めてる』

「私、噂に興味ないもん」

私は自分の心にうそをついてる。
本当は今すぐにでも主任に確かめたい。

婚約なんてただの噂ですよねって。

本当だったらどうしよう。
もう彼から誘われることは無くなるかもしれない。
いよいよ覚悟を決めて、この関係を清算しなきゃいけない。

そんなことできる？

原田主任には入社した時から憧れていた。
2年前に彼と同じ部署になった時は、嬉しかった。
何かと部下の私を気にかけてくれる主任を、ただの憧れから、本気で好きになっていた。

主任が総務部の永井彩さんと付き合っているのは知っていたし、お似合いのカップルと社内では有名だった。

だから、私の恋心は胸に秘めているだけで良かったのに。

でも昨年末の忘年会で、原田主任が私をマンションまで送ってくれた時から関係が始まった。

私は一夜だけのつもりだったけれど、その後も主任から求められ、うれしくて…

今も主任とはカラダだけの関係が続いている。

都合の良い女だと思われてるのはわかっている。
彼の1番になれなくてもいい。
一緒にいられるだけで幸せ。

そう思ってきたけれど、私の気持ちは限界。

彼の1番になりたい。
私だけを見てほしい。

そんな欲が、私の心を蝕んでいる。