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お前がおらんくても余裕で仕事できたし？
しげに言われた言葉が重くのしかかってくる感じがする。
私は所詮その程度。
それは間違いなく事実で、だけどやっぱりちょっと悲しかった。
せめて邪魔にならないようにと静かに窓の外を見る。
滲んでぼやける窓の外の風景は、つまり自分が今泣きそうだという事で。
せめて溢れ落ちないようにとバレないように何度も瞬きした。
しばらくしてタクシーは事務所の駐車場で車を止めた。
支払いを済ませて降りる。
「しげの事送れそうな人探すから、ちょっと事務所まで来て」
事務所へ続く階段へ向かおうとしたら腕をぐっと掴まれた。
「ん、どしたの？」
大丈夫、もう涙は引っ込んでる。
普通の顔して振り向いたら、しげはちょっと怖い顔してた。
重「お前どうやって帰んねん」
「自分の車で帰るよ」
重「さっき意識ぶっ飛んだ奴が運転なんてありえへんやろ」
「...じゃあ電車で帰る」
重「ん」
「？...ちょ、何すんの！？」
しげが私の鞄に手を突っ込む。
慌てて腕を掴んだけど全然敵わない。
しばらく鞄を漁られたらばっっと勢いよく腕を抜いた。
手には私の車の鍵。
とうっ！！なんてジャンプしながら少し離れた所にある私の車めがけて操作すると、ピピッと音を立てて車の鍵が開いた。
「さっき車はダメって言ったじゃ...っ！」
喋りきる前にまた腕を掴まれてずんずんと車に向かっていく。
車の前でぱっと手を離すとこちらが何も言う間もなくしげが運転席に乗り込んだ。
重「おら、はよ乗れや」
「え？」
重「乗らんの？ほなお疲れ様でした〜」
「は？」
状況についていけない私を他所に、しげはシートベルトを締めるとエンジンをかけそのまま車を走らせ駐車場から車共々姿を消した。
「...」
えー...目の前で車盗まれた。
駐車場の出口を見つめて立ち尽くすしかない私。
あ、もう、電車で帰ろう。
のそっと歩き出そうとしたらクラクションの音が背中から聞こえて、振り返ったら駐車場の入り口に私の車がいた。
器用に私のすぐ横に車を寄せる。
重「いや、止めろや！まじで出て行ってもうたやんけ！！」
「...」
重「っやから、送ったるから！はよ乗れや」
頭をがしがしかくのは照れてるからなのか面倒と思っているからなかのか。
いつもの笑顔がないから判断できない。
でもきっと、私が乗らない限り納得しないんだろう。
「...すみません。よろしくお願いします」
重「おう」
私を助手席に乗せて車は走り出した。
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作者名：のら
| 作成日時：2019年6月12日 1時
