指先に魔法、耳元に宇宙《緑》

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side 神山


《ピンポーン》


「どうぞ」

神「...おじゃまします」


久しぶりに入る女の子の家。
まじで尚の家以来やな。

入るなり、ふんわり甘い女の子特有の匂いがする。



あの後、まだお仕事があるから改めて話そうっAは優しく言うた。

ほんでLINEを交換して。
顔見て、声聞いて、俺らは初めて現実の中で繋がった。


ネイルしてやってお願いしたら指定された場所が彼女の職場やなくて自宅やったから、俺は前日アホみたいにドキドキして寝れへんかった。


神「これ、つまらない物ですが」

「わ、かわいい！」


お土産に買ってきた紅茶の缶はかわいい猫のイラストがたぶんA好みやと思ったから。
ほんなら予想通り嬉しそうにしててほっと胸を撫で下ろす。


案内された部屋は白をメインにパステルカラーで揃えられてかわいらしくて、やっぱAはこういうの好きなんやなって。



神「ほんなら、改めまして。神山智洋です」

「存じ上げております。私は、南Aです」


そう言ってお互いペコリと頭を下げる。
初めて聞いたAの苗字。
そろっと顔を見合わせればむず痒くて笑い合った。


神「なんかな、正直、イメージと違ってたと言うか」

「え？」

神「自分にさ、自信持たれへんかったやん？」


今のAはなんやろう、芯があるというか、すっとしていて。
前話してた時とはまた別にドキドキしてまう。


「これ、智洋と話した位の時の私」


1枚の写真を差し出された。
桜の下で皆でお弁当食べとるから、たぶんお花見。
中年の男の人達に囲まれて、控えめに写る女の子はどうしたって目立っとった。

それを見ても、信じられへん。


黒く長い髪は前髪が目にかかりそうで、背中がくるっと丸まって首が前に落ちとる。
目は今と変わらん切れ長のすっきりした目やけど、それ以外はほんまに、雰囲気含めて全然別人やった。


「智洋がくれた言葉がきっかけで変われたの」

「ずっと自分に言い聞かせた。魔女だから魔法が使える、自分を変える事もできるし、誰かに魔法をかける事だってできるって。
...まぁ実際はただいろいろ、努力しただけだけど(笑)」


少し眉根を下げて笑う。


「でもね、本当に魔法みたいにいろんな事が変わったの。
周りの人にも素敵になったって言われて、私もその言葉を素直に受け入れることが出来て」

「恋人だって、できたんだよ？」


これこの前コンビニでぶつかった時だと思うって彼女が渡してきたのは失くしたと思ってたピアスのパーツやった。


深い緑の小さな宇宙。



ああ、俺は遅かったんやって、気づいた。

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