ふたつのこころ

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「拓実ぃー！

最後やぞー！

お前にかかってるー！！」



純喜の声は前に発せられても

後ろまでしっかり届く。



ベンチから野球部員が出てきて、

純喜に何か言っているようだった。



恐らく『迷惑』かなにかだ。



拓実は純喜に軽く手を挙げて、

いつものルーティーンに集中した。



ヘルメットをかぶり直した。



急に目付きが変わった。



遠くでもその様子がAへ分かった。



バッターボックスに入ると、

応援席から声が上がった。



野球部員たちは声が枯れかけている。



目に涙をいっぱいにためている。



一球目は高め外角のボール。

拓実は手を出さなかった。



二球目はインコースのチェンジアップ。

拓実は大きく振ったが、

球はバットの下を通り、空振り。



応援席からあぁという声が漏れる。

でも、拓実はめげなかった。



流れを変えたい。



相手ピッチャーが

キャッチャーのサインに首を振る。



拓実は読んでいた。

一か八か。


ピッチャーから球が放たれる。


ギリギリいっぱいの外角ストレート。


球がバットの芯に当たる。


ボールがキレイな弧を描いて

外野へ飛んでいく。


センターの頭上を越えて、

フェンスにあたった。


ツーベース。


でも拓実はボールを見ながら二塁を回った。



センターがボールを転がして

もたもたしている間に

三塁へ滑り込む。



ボールが三塁へ届く。



寸分の差で拓実の手の方が早かった。



三塁審判が両手を横にふった。



拓実はそれを確認して、

拳を空へ突き上げた。



スリーベースだった。



「拓実ぃー！やったなー！！」



一塁側にいたはずの純喜が

何故か三塁側の応援席のフェンスで

大声をだして拓実を鼓舞している。



その声が一塁側まで届いていた。



三塁応援席の人々が迷惑そうな顔をしている。



係の人に引っ張られ、

興奮しながら純喜は

Aの隣にもどってきた。



「しゃー！

やったぞA！これからや！」




純喜がAに両手ハイタッチを求め、

Aがそれに答えると、


純喜はAの手を掴み、上下に振った。


Aはもう純喜のされるがままだった。



純喜も係の人に止められても、

全くめげていなかった。



熱い人間だ。とAは思った。

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