ふたつのこころ

下校 ページ1

「おい！

お前らイチャイチャしてんちゃうぞ。

ちゃんと勉強せえよ。受験生やろ。」



Aが校門を跨ごうとしたとき、

サッカーボールを片手に

爽快に走る純喜の姿が見えた。



「うるさいなあ、

純喜くんには関係ないやろ。」



「拓実ー！

お前、河野先生って呼べって

言うてるやろ！

明日の授業覚えとけよ！」



純喜は大口を開けて笑いながら、

グラウンドの方へと走っていった。



「あいつ、ほんま先生らしくないよな。」



隣で自転車を引いていた拓実が

呟くように言った。



ふふ、とAは笑った。

本当にそうだ、と思った。



純喜の後ろ髪は、

夕方になっても落ち着かない寝癖が

ぴょこっと角のように出ているし、


笑うときはガハガハと大口開けて笑うし、


先生のくせに

サッカー部員の誰よりも早く外へ出て

グラウンドの整備を始めている。


今は定期テスト前の部活禁止期間なのに、

何故か先頭に立ってサッカーの練習している。


そんな先生らしくない先生。



「Aの方がよっぽど大人やんな。」



「そんなことないし。」



「いや、ほんまにそう。


今も純喜くんが

『イチャイチャすんな』って言った時、


A、なんも反応せえへんかったやん。

俺、すぐ反応してもうた。」



なにも反応しなかったわけじゃない。


ただ、なんと返事をすればいいのか

わからなかっただけだった。


『イチャイチャ』というのは

恋人同士が使うものだけど、


Aと拓実の間には雰囲気こそあるものの、

まだそういう関係じゃない。


もっとも拓実はそういう関係を望んでいた。

だから今、二人で帰り道を歩いている。





梅雨入り前の夏の夕焼けは、

Aのセーラー服を

オレンジ色に染めていた。


アスファルトからは、

昼間に吸収した熱気がもわっと立ち上がる。


拓実はカッターシャツの袖をまくり、

額の汗がキラキラと美しく光った。

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