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首を締めあげられて、普通に苦しい。顔を歪めて松田くんに抗議する。
「ちょ、いたっ! 痛いって!」
「絞め殺されたくないんなら、俺を投げ飛ばすんだな」
「……むりだって。松田くん重すぎるよ」
「泣き言なんて聞きたくねえな。さっさとしねえとマジで意識飛ぶぞ」
脅しではなさそうだった。
ぐいぐいと締め上げられる首元に、呼吸をするのもやっとなのである。
こんなの教官の指示と完全に逸脱している。勝手にメニューを変え始めた松田くんに、周囲の男女がぎょっとしたようにこちらをチラチラ見てくる。
「ちょっとやだ…なにあれ?」
「柔道っていうか、プロレスじゃね?」
「いや、イチャついてるだけだって」
かあっと顔が熱くなるのが感じた。
じろじろと無遠慮な視線にさらされても、松田くんはいっこうに腕の力を緩める気はないようだった。
「ま、つだ…くん……はなして」
からからにかわいた声が、唇の端からこぼれ落ちる。松田くんが馬鹿にしたようにフッと笑った。
「じゃあ投げ飛ばせよ」
苦しい。息も絶え絶えのせいで、余計に体力が消耗していた。
足腰と腕にありったけの力をこめて、松田くんの柔道着からのびる逞しい腕をぎゅっと掴んだ。
「おお、その調子」
わざとらしい褒め言葉に、唇を噛み締める。
苦しくて顔が歪むのを我慢して、腰を少しおとす。もう片方の手で胸ぐらを掴み、ぐいっと松田くんの体を回転させる。
松田くんの腕が、首元から離れた。いける、とその瞬間、かすかな興奮と勝利への胸の高まりを感じた。腕を掴んでいた手は、肩の方に素早く掴み直す。松田くんが抵抗するようにわたしの胸ぐらを掴もうとしたが、そうはさせるかと体当たりした。
このままひっくり返す……!
渾身の力で投げ飛ばそうと、ぐいっと頭を上げる。
そこで、思わぬことに頭の中が真っ白になった。
引き寄せた胸元の柔道着に引っ張られ、松田くんの顔とわたしの顔の間の距離は、ほとんど一センチにも満たなかった。
存外童顔な松田くんの顔は、間近で見るとはっとするほど男前だ。
鋭い目つきが今は少しだけ見開かれ、小さい鼻と男らしい薄い唇に目を奪われる。
繊細な細い睫毛や、熱い吐息や、汗にまじる彼自身のにおいにも。
真っ白だった頭の中が、狂ったように今度は高速でぐるぐると回り始めた。
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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
桜 - そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時