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硬直して動けないわたしに構わずに、ブラをさっさと脱がした萩原くんは、シャツで半分だけ隠れた胸に、そっと手を差し入れる。
せめてもっとふっくらした胸ならよかったのに。
萩原くんは気を使ってシャツを脱がさなかったけれど、きっと彼には隅々まで見えている。そう思ったら、羞恥で死んでしまいそうだった。
ふっくらしてて、真っ白で、可愛い胸ならよかったのに……。
そしたら少しは見られたって平気だったのに……。
萩原くんの、意外に男らしい節くれだった指が、そっと胸のふちをなぞる。
「ああ、ここか」
萩原くんが呟いた。
「やばいな、結構赤くなってる」
「え? ど、どれくらい?」
不安になって思わず尋ねたら、萩原くんが近くにあった手鏡をわたしに差し出す。それをそっと胸の内側に差し入れて、鏡を見下ろした。
「……うわぁ」
右の乳房の端が、赤黒く変色している。よほど強くぶつけたのだな、と改めて思った。
「またゾンビになっちゃった……」
「馬鹿なこと言うなよ」
思わずつぶやいたわたしに、萩原くんがぴしゃりと言った。
「ちょっと冷たいけど、我慢してね」
そうことわってから、氷がそっと胸に当てられる。ひんやりとした感触が、熱をもった肌に気持ちいい。
ズキズキ痛んでいた打撲痕が、氷の冷たさで麻痺していくようだ。
「……ごめんな」
「え?」
いきなり萩原くんが謝ったので、びっくりして彼を見つめた。
萩原くんが、わたしを辛そうに見返してくる。
「Aちゃんのこと、守ってあげられなかった」
細い睫毛が萩原くんの痩せた頬に、長い影を落としている。うらやましいくらいすっと通った鼻筋と、形のいい薄い唇。さらさらの髪の毛からなんだかいい匂いがして、胸が爆発するんじゃないかというほど高鳴った。
「は、萩原くん……どうしたの」
「マジでごめん。次はこんなことさせないから」
「い、いやそんな。ほんと、萩原くんが謝るようなことじゃないから」
萩原くんが伏せていた目を、そっと上にあげた。萩原くんのほうが背がずいぶん高いはずなのに、ベッドに腰かけているとほとんど目線が変わらないというのは複雑な気分だ。
「Aちゃんは優しいなあ」
「そうかな」
「うん」
萩原くんはにこっと笑って、わたしの胸に注意深く湿布をはりつけた。
「少しはましになるといいんだけど」
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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
桜 - そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時