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くっと唇を噛みしめる。耐えよう。反応しなければ面白くなくなってそのうち立ち去るはずだ。
 無言でうつむいているわたしに、男は「ねえねえ、見てー。〈例のあの人〉だぜ」とふざけたような口調で言いふらす。

 くすくすと漏れる笑い声、困惑する視線、巻き込まれまいと早々に立ち去る生徒。
 反応は様々だが、わたしをかばってくれる人などいるはずもない。

「例のあの人って、それ、ハリーポッターのあれだろ」

「誰だっけ」

「ヴォルデモートだ」

 周りの生徒たちも、男に加わって、そんな中傷めいた言葉を投げつけてくる。ヴォルデモートと言った瞬間、今まで沈黙を守っていた他の人間たちにも、嘲笑が広がった。

 わたしはうつむいたまま、じっと唇を噛んだまま立ち尽くす。口の中に鉄の味が広がった。
 早く終われ、終われ、と願っていたら、凛とした声が嘲笑の喧噪をかき消した。

「おい、やめろ」

「お前らなあ……二十歳すぎた大人が何やってんだよ」

 どこか見知った声に、おそるおそる顔を上げると、案の定仏頂面の零くんと、瞳に静かな怒りをためた諸伏くんが、わたしと男を遮るように立ち塞がっている。

 あ、なんか、既視感がある。
 つい昨日、わたしもこうやって立ち塞がったのだ。
 おばあさんと、あの狂暴な若者の間に。

「なに、お前ら」

「こっちのセリフだ。これから警察官になろうというやつが、いじめなんて女々しいことやってんじゃねえよ」

 諸伏くんが静かに言い放つ。

「あと、そこ邪魔。ご飯買えないだろ」

 零くんがいささか馬鹿にしたように付け足す。
 場は完全に白けて、全員が黙りこみ、みんなそそくさと席に戻っていく。わたしに因縁をつけてきた大柄な男も、それ以上は何も言わずに、舌打ちだけ残してその場を去っていった。

「おい、平気か?」

 諸伏くんが、心配そうにわたしの顔をのぞき込む。気づかわし気にひそめられた眉と不安そうな瞳に胸が熱くなる。

「全然、変じゃないよ、顔。大丈夫だよ」

 優しい声に、思わず噛みしめていた唇をそっと離した。
 口いっぱいに広がる鉄の味に、ぽろりと涙が零れ落ちる。ぎょっとしたように諸伏くんが目を見開いた。

「え、ちょ、な、泣いてるっ……ど、どうしよう、零、なあどうしよう」



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あやちゃん(プロフ) - 海星さん» 面白くて何回も読ませてもらっています!続きがくるのを楽しみにして待ってます! (2020年3月27日 20時) (レス) id: 60d90b2065 (このIDを非表示/違反報告)
- あの、ずっと更新停止されてますが大丈夫ですか? (2020年1月13日 7時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
- そうだったのですか…。安心いたしました!テスト頑張ってください^^ (2019年11月27日 18時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)
海星(プロフ) - 桜さん» 心配していただいて、ありがとうございます…今テスト中で。更新がゆっくりになってます。すみません! (2019年11月27日 16時) (レス) id: 4bcc115d21 (このIDを非表示/違反報告)
- 最近、更新がありませんが体調など大丈夫でしょうか?とても心配です…… (2019年11月27日 0時) (レス) id: 73a2611a5f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海星 | 作成日時:2019年11月9日 13時

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