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episode92 ページ2

うっすら、白い膜のようなものが覆っている。
それがだんだん、透明になっていって、やがてくっきりと見覚えのある天井が見えた。


大きなシャンデリアが、目に飛び込んでくる。
午後なのだろうか?

暖かで柔らかな光が、部屋を満たしていた。

頭がひどく痛む。眠りすぎた日の朝みたいだ。私はそうっと起き上がる。
いつも寝起きしている、工藤邸の寝室がそこにあった。

ゆっくりと辺りを見回す。
ベッドの目の前の机に、お菓子や花束や手紙やらが丁寧に一つずつ並べて置かれていた。
……お見舞い? かな?

誰の、だろ?


ぐらぐらする体に鞭打って、私は起き上がろうとする。
その瞬間、足に激しい痛みが貫いて、ベッドの上から落ちかけた。


ひえええ、いたたたた……なんだこれ、折れてるのかな?

包帯でぐるぐると固定された右足は、いつもの太さの二倍くらいある。
私はほとんど片足で、右足は引きずりながら部屋をでる。
ドアを開け、慎重に一階へ降りていく。


リビングから淡い光が漏れていた。
ぼんやりとした意識のまま、そこへ導かれるようように足を延ばす。


見慣れた景色だ。

クリーム色の大きなソファ。
テレビ。
趣味の良い、統一された家具。

ソファには、こちらに背を向けて、大柄な男の人が腰掛けている。
タバコを吸っているのか、ときおり煙を吐き出している。

ずいぶん、長い間、見ていなかった。
そんな気がする。
私はゆっくりと手を伸ばした。この距離じゃ届くはずなどないのに、相変わらず薬で痺れたような頭では、距離感もよく測れなかった。


「あかい、さん……」


びくり、と赤井さんの肩が震えた。
はっとして振り向いた顔に、思わずへらっと笑顔が溢れた、気がする。

実際は分からない。
私は身を乗り出したせいで、今度こそしたたかに顔面を床にぶつけていた。


いてえ……


「A!!!!」


太い腕に抱き起こされる。
懐かしい赤井さんの香りがした。コロンとタバコの混じった、大人の男の匂い。


「あ、あかいしゃん……おはよ…」


朝の挨拶はちゃんとしないと、やっぱり。
そう思っていたのに、赤井さんは返事をしなかった。

「あかい、さん? まだ、おこってるの?」

赤井さんは答えない。
そのかわり、痛いくらいにぎゅっと抱きしめられた。
痺れた頭で、ぼんやりと温もりを感じる。

ああ、本当に久しぶりだ。
この温もりを、においを、逞しい腕を感じるのは。


そう思ったら、ぽとりと涙がこぼれた。

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やっち(プロフ) - 更新お待ちしてます (2022年4月22日 11時) (レス) @page23 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
みー - 主人公ちゃんも赤井さんも魅力的で何度も読み返しちゃいます、、いつかまた戻って更新されてるの楽しみにしてますね! (2021年8月31日 20時) (レス) id: fa7939d4a9 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 面白かったです。更新楽しみにしています!!! (2021年6月2日 2時) (レス) id: 3c947ce476 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ - めっちゃくちゃおもしろかったです! (2021年4月23日 17時) (レス) id: 1d6a9bd8f3 (このIDを非表示/違反報告)
キサキ(プロフ) - 面白くて何度も戻ってきて読んじゃいます、更新お待ちしております頑張ってください!!! (2020年10月20日 10時) (レス) id: a8bb3b0a09 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海星 | 作成日時:2019年9月30日 12時

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