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「もしもし」
おそるおそる、といった様子で、次郎吉さんが電話をとった。
電話は室内にいる人間たちに聞こえるよう、スピーカーモードにされている。
『鈴木次郎吉。待ちに待った第二報だ、おめでとう』
電話口から聞こえた声に、全員が眼を見開く。
不自然なほどに固く震えた声は、紛れもなくAの声そのものだった。
一瞬、目の前がぐにゃりと歪む。なにがおめでとうだ。ふざけるな。
『今から一時間の間に三億円を黒いアタッシュケースにつめて、会場の駐車場のF番出口まで持ってこい。鈴木次郎吉、お前本人が、だ』
次郎吉さんが何か余計なことを言う前に、俺は彼を押しのけた。唖然とした顔の次郎吉さん。構わず今度はコナン君の蝶ネクタイをもぎとる。
「あ、ちょ、安室さん……っ」
構ってられるか。素人に任せていたら埒があかない。
「園子、生きてるのか。無事なんだろうな? 録音でないという証拠を聞かせろ」
次郎吉の声で喋れば、電話口で一瞬息を飲むような気配がした。
『以上だ。また連絡する』
「園子が生きている証拠がなければ、金は用意しない」
しばらく無音が続いた。
やがて消えそうな声が、俺の耳に聞こえてきた。
『お、おじさま……わたしは大丈夫です。心配してくれてありがとう』
賢いAは空気を読んで、芝居をうってくれた。
電話口から、少しでも多くの情報を読み取ろうと懸命に耳をすます。
パタパタ、と何かがはためく音……排気口、か?
「園子、だな?」
確認するように尋ねれば、
『はい』と、気丈な返事がかってくる。懸命に泣くのをこらえているようなその声に、俺は拳を握りしめた。
もう少し探りを入れようと思ったのだが、もういいだろう、と言う声が横から聞こえ、唐突に電話が切れた。
俺はため息をついて電話をきる。
「安室さん、その蝶ネクタイ、僕のなんだけど」
コナン君が呆れたように言ったので、俺は素直に彼に謝って蝶ネクタイを返した。
「君は彼女のことになると、まったく見境がなくなるな」
皮肉ともつかない沖矢の言葉。俺は沖矢を睨みつけ、さっきの電話口で聞こえた排気口らしき音のことを考えた。
絶対、助けてやる。
どんな手を使ったって。
あいつだけには、俺以外のやつが、指一本触れることだって、
俺は許さない。
今までに感じたことのないほどの怒りが、気がつかないうちに俺の中で激しく燃えていた。
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mei(プロフ) - 素敵すぎる…!!!胸キュンしすぎて苦しい状況に陥っています。どうしましょう。 (2022年5月5日 3時) (レス) @page46 id: b5f626851a (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 甘々零さん、ごちそうさまです。私もそんなふうに思われたい! (2022年4月21日 17時) (レス) @page46 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
belle(プロフ) - この作品を何度読み返したことか…海星さんの書く零さん好きすぎます。また書いていただけませんか?是非読みたいです (2022年4月21日 0時) (レス) @page46 id: a2ba23688b (このIDを非表示/違反報告)
推しが尊いマン(プロフ) - はあああああ番外編最高かよおおおおおおお甘々じゃねえかよおおお最高ありがとうございます (2021年1月11日 15時) (レス) id: ae253cfa81 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - めちゃくちゃキュンキュンして一気に読んでしまいました!景光と零と夢主が夢の中で3人で会話してるの見たいです!更新待ってます! (2020年3月19日 19時) (レス) id: 2a4d2a700d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2018年6月15日 16時