219.八咫烏 ページ28
抱えられたままやるべき事じゃないから、サンジ君から離れて私は立ち上がった。
全く何も聞いていなかった事に不満タラタラなアヤメちゃんを視界に入れること無く、磯撫は鋭い爪が伸びる手を私の方へ伸ばす。
「頭首殿、お手を」
「うん」
手を差し出すと、磯撫の爪が私の手の平の肉を軽く裂いた。
ビリッと走る痛みに肩がピクリと跳ねたけど、そのまま手を差し出し続ける。
片手が塞がっている磯撫は、自身の歯で手の平に傷を付けると私の手をその手で握った。
「おいでませ、深淵へ」
一字一字を耳に刻むような口調でそう言うと、その手にあった青い炎が目で追えない程の速度で私と磯撫の周りをグルグルと回り、風が暴れる。
炎だけに気を取られていると、背中の布を突き破って大きな黒い翼が私の背中から生えてきた。
「脚がっ…！」
脚が鳥の脚になったり、人に戻ったりを繰り返す。腕や体から羽毛や羽が生えてくる。それが全身を飲み込み思わず目を瞑り、轟々と鳴る風と炎の音が収まるのを待った。
「なるほど、こうなりやしたか」
今にも歌い出しそうな楽しげな声に目を開けると、周りに黒い羽がたくさん散っていた。
手を見ると、見慣れた人間の手や腕、脚がある。
「どわぁぁぁぁっ！！」
素っ頓狂な叫び声と同時に頭からぼっふりと毛布を被らされて視界が閉ざされる。視界をおおっていた毛布だけ持ち上げると、顔を真っ赤にしたサンジ君が私の体を包むように毛布を掴んでいた。
「ヤベー、全裸だ」
「だから隠したんだよ！！」
「おお、サンジ君鼻血鼻血」
鼻血を拭いながら、食い気味でサンジ君が返してくる。
手や脚に変化はない。変化があるとしたら、背中に翼がある事だけだった。サイズは多少変えられるようだけど、体内に完全に入れるのは無理そうだ。
「完全に人の姿になるのは無理だからなー。烏天狗みたくなんなくてよかったね」
大きな体を揺らしながらアヤメちゃんが笑った。
その様子を見て、私の周りに皆んなが集まって安心したように笑いかけてくる。
「な！大丈夫だって言ったろ？」
「うん！」
シッシッシとルフィが屈託なく笑う。
その様子を見ていた磯撫は煙を吐きながら、ぐっと背伸びをした。
「さぁて、これで終いだ。オイラ達は帰らせて頂きやすぜ」
「もう帰っちゃうの？」
「ああ、アンタはもう頭首はクビだ。A」
「へっ？」
頭首殿でもお嬢でもなく、Aと呼んだ磯撫の目に口を半開きにした間抜け面が映っていた。
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銀之助(プロフ) - 未だにお気に入り登録、お気に入り作者登録、ハートの通知などをたくさんいただき、ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。これからも長く楽しんで頂けたら、幸いです。 (2022年9月16日 22時) (
レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
銀之助(プロフ) - 香さん» コメントありがとうございます。かなりの長編だったのに全部読んでいただき、面白いと思っていただけて嬉しいです。キュンキュンをお届けできて一安心いたしました。 (2022年5月12日 21時) (レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
香 - 本当に好きすぎです…面白かったしキュンキュンしました！ (2022年5月9日 11時) (レス) @page48 id: 64178017ff (このIDを非表示/違反報告)
銀之助(プロフ) - たろ。さん» コメントありがとうございますー。一気読み嬉しいです！ありがとうございます。サンジくんの魅力を損なわず書けていたなら、本当に良かったです。 (2022年4月9日 22時) (レス) id: 9c08df65af (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - やばいめっちゃ泣いたし一気読みした…サンジくんたまんねぇなおい。 (2022年4月5日 3時) (レス) @page48 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：銀之助
| 作成日時：2018年7月11日 21時
