第107話「過去は栄光とともに」 ページ23
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「作法は叩き込まれたのか」
「五条家に仕えてた時から来客対応は先輩達に叩き込まれました。最初の方は3回くらい茶をお客さんにぶち撒けてたけど」
「よく殺されなかったよね」
「半殺しにはされたけどね」
昔の私、よく耐えたよな。
あんなんパワハラまみれのクソ現場だったけど、それでも先輩たちにフォローされたりしてたし……
「先輩たち、元気かな」
ポツリと呟いた言葉は静かな廊下に響いた。
前を歩いていた悟お坊ちゃまがちょっとだけ振り返る。
「僕があの家出て行くまで、君以外のみんなは五体満足で勤めてたよ。そんで、僕が出て行く時に全員辞めさせた」
「えっ。なんで」
「君みたいにまた、馬鹿どもの私怨で彼らが殺されるのは見てられなかったからね」
ああそうか。一応お坊ちゃま、使用人ズを守ってくれてたのか。
そっか……なら良かった。
「悪いけど、その後の彼らの消息は分からない。憶測にしか過ぎないけど、君の件で懲りて普通の一般企業に勤めてると思うよ。彼らも命が惜しいだろうから」
「だよね〜。後輩がこんなスッパリ殺されてたら恐ろしくて仕方ないよね」
「みんな悲しんでたよ。遺骨は無いけど一応立てた君のお墓に、毎年彼らは線香を上げに来ている」
ぴた、と足を止めた。
「なら、もしかして、私が死んだ日にその場所に行けば、みんなに会える!?」
その言葉に、悟お坊ちゃまも足を止めた。
「会えるだろうけど、今の君の現状をどうやって説明するつもり?」
「……あ」
「二十年経ってるんだよ。彼らももう四十過ぎの大人で、君だけはあの頃の君のまま。多分「幽霊だ!」って叫ばれて、恐れ慄いて逃げられるのがオチさ。この摩訶不思議な状況を説明できる脳が君にある?」
私だけが二十年前に取り残されたままだった。
そうだった。彼の言葉にストンと何かが落ちた。
そうだった、そうだったんだ。
「なら、そうだね。もう、みんなと会わない方が良いのかもね」
私の口から転がり落ちた言葉は、反響することなく静かに消えた。
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第108話「振り返らず前に」→←第106話「メイドさん、割とまとも」
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なぎさん(プロフ) - めっちゃ面白かったです!素敵なお話ありがとうございます!! (9月17日 23時) (レス) id: 3e92d95cce (このIDを非表示/違反報告)
しろごま - 面白いです!あまり人の事には突っ込めませんが更新頑張って下さい! (2022年9月24日 7時) (レス) @page26 id: 4dc97dea49 (このIDを非表示/違反報告)
レネット(プロフ) - もう呪術は書かれないのでしょうか… (2021年7月16日 0時) (レス) id: ec8ec8961f (このIDを非表示/違反報告)
あいねこ(プロフ) - コメント失礼します。今まで読んだ作品の中で個人的に一番好きです!更新頑張ってください! (2021年1月2日 18時) (レス) id: a4bed0c9af (このIDを非表示/違反報告)
. - 凄く面白かったです。続きが読みたい!!! (2020年12月17日 5時) (レス) id: 0b60fa6ccb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nny。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年11月30日 19時