TH-4 ページ20
俺の言葉に、Aさんは棒でも飲んだみたいな顔になって、それからカウンターに肩肘をついて、頬をぽりぽり掻いた。
照れてるのか、困ってるのか、怒ってるのかわかりかねる顔だ。
『アー、これが噂にきく四次元…どこからその話題出てきました？私、名乗りました？』
「Aさんじゃないんですか？」
『そうじゃなかったら、あなたものすごく恥ずかしい人ですよ、今』
「Aさんですよね？」
『ハー…そうです。Aです。ユンギの弟が会いに来るのは、大体同じ話なんだろうから、私居留守使いたいんだけど、今からいいですか？』
俺がなぜここにいるのかわかっているようで、ものすごく嫌だという態度を隠そうともしないところも、好感が持てた。
「駄目です。あと、そんなに悪い話じゃないですよ、きっと」
確信を込めて、そっと告げると、Aさんは首を傾げて、うーん、と唸った後に俺を手招きした。
『じゃあ、聞いてみようかな。とりあえず』
そっち座って、とカウンター横にある3人がけのソファを指さしたけど、俺はAさんのいる方に近付いて、その顔を覗き込んだ。
俺を見ても、何の感情も無い瞳。
Aさんは緊張したように瞬きもせずに見つめて来るけど、俺はすごく居心地が良くて、この人がすっかり好きになってしまった。
「Aさんには、スパイが必要だと思います」
決意を込めて、宣言する。
見ている前で、Aさんはどんどん眉を寄せていって、口が変な形に歪んでいく。
『…ん？スパイつった？』
笑った。
笑うと、一気に人懐っこい顔になるんだな、と思いつつ、首をうんうん頷いて見せる。
「スパイです」
「あなたが見ていない間の、ユンギヒョンの情報を提供してくれる味方のことです」
「それは俺です」
これが、俺が考えたユンギヒョンのためにできること。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 918人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：フネ55
| 作成日時：2022年12月3日 8時
