TH-3 ページ19
長かったワールドツーアも後半戦の、ツアー中休み。
それでもカムバックが始まってのテレビ番組出演や、取材、ダンスレッスンと、ただひたすら会社と家を往復する日々の中だった。
ようやく待ちに待ったオフの日に、俺はずっと行きたかった場所に飛び出していった。
そこは真新しい楽器が、所狭しと置かれている、楽器店。
ドアを押して入っていくと、まだ開店したての店内には人気が無く、…というか、目当ての店員すらいなかった。
仕方なく、俺は陳列されている楽器を眺めて、感心した。
乱雑に並べられているなわけじゃなく、小さなポップでそれぞれの特徴や使いやすさなんかをわかりやすく説明してあったりして、すごく選びやすい。
俺はこの店が一目で気に入って、下の方に陳列されたウクレレを手にとって、ポロンと爪弾いたりした。
『うわびっくりした！お客さん！入店したなら挨拶くらいしてくださいよ！不審者として通報しますよ！』
その音でやっと俺がいることに気付いたのか、店員のお姉さんがカウンターの方から大きな声を掛けてきた。
「それは困ります」
立ち上がって、俺は帽子とマスクをとって、その人に向かって頭を下げた。
なるべく丁寧に、礼儀正しく見えるように。
「はじめまして、キム・テヒョンです」
『お、オオー、噂の。世界一位の顔面…失礼。素敵なお顔でいらっしゃいますね！…で、何かお探しですか？』
すごく普通に聞き返されて、俺は思わず口元が緩んだ。
俺達はあまりに有名になりすぎてしまって、国内ではどこに行っても腫れ物みたいな扱いが多かったから、こんな風に一般客みたいな扱いされるのは、珍しいし、すごく嬉しい。
それに、この人は俺がユンギヒョンの弟だってわかってるのに、初対面の相手としてちゃんと礼儀正しく接してくれた。
「俺、なんでユンギヒョンがあなたじゃなきゃ駄目なのか、わかる気がします」
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作者名：フネ55
| 作成日時：2022年12月3日 8時
