桜 ページ30
「・・・暫くぶり?」
――と、高杉さんがそう繰り返す。
「・・ここのところ、ごたごたしていましたから。お酌に伺うのは暫くぶりじゃありませんか?」
「・・・・確かに、それも久しぶりじゃあるな」
「――“それも”・・?」
・・・彼の言葉の中の三文字に、思わず反応してしまった。――それも、とはつまり他にも久しぶりであることが何かあるのだろうか。
どこか呆けているであろう顔を、高杉さんの方へ向けていると。
「てめェ、ここのところおかしかっただろ」
「――――な、」
「普通に話しかけてきたのも、暫くぶりか」
――ふっ、と。瞼を閉じて煙を吐き出しながら、言った高杉さん。
・・くらりとしてしまいそうだ。お酒の匂いにでも流れる白色にでもなく、彼そのものに。・・・・否、もうしているか。
高杉さんの言葉には何も返さず、ただただ私も笑みを零した。そして。
「・・・・・高杉さん」
「なんだ」
部屋の窓の向こうに目をやる。真っ暗で、灯りなんて何もない。昼も夜も、夏も冬もありはしないこの空間だけれど。
「・・――地球では、もう桜が散る頃でしょうか」
そこでは。あの綺麗だと云われる星では。
・・・・きっともう、桜も散る頃だ。
「・・・・さァな」
素っ気なく返した高杉さんのお猪口に、少しお酒を注ぎ足し。
「・・桜吹雪、今年はどうやら見れそうにありませんね」
この前もこの目に収めた、あの桜の木。あの時はまだ満開には程遠かったそれも、もう薄紅を辺りに舞わせているのだろうか。・・・もしそうだとしたら。
・・毎年、屋敷の窓から眺めた綺麗なそれ。――・・その“恒例”も、今年はやってきそうになかった。
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ユイ - 完結おめでとうございます。とても素敵な作品で、最初の方から休まず一気に読んでしまいました。それに、描写がとても綺麗でもあり、妖艶で惚れました。最高です。 (2019年10月20日 10時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 流れるような描写がすごく綺麗でした!読了後に「色は匂へど散りぬるを」の最初の方を読み返して夢主の成長を感じ、色んな意味で強くなったなあ、なんて思ってしまいました。最後に、素敵な作品をありがとうございました! (2017年5月9日 18時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち - 完成おめでとうございます!初めて見たけど面白かったです!! (2017年3月26日 18時) (レス) id: 8a0b328429 (このIDを非表示/違反報告)
碧瀬(プロフ) - とても素敵な作品でした。完結おめでとうございます。 (2017年1月29日 1時) (レス) id: 33020b63e9 (このIDを非表示/違反報告)
呪者 - あぁ!高杉むずかしい!完結おめでとうございます!(^^) (2016年8月24日 10時) (レス) id: e80216b179 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2015年3月23日 23時