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初めて会ったのは、まだ幼い子どもだったころ。
大人に囲まれた貴方を、遠くから眺めていた。
そこに私を連れて行った父は偉く興奮して、
私にあの方の子を産み、自分をあの輪の中に加えるよう言い聞かせた。
それからすぐに、
私を産んだのは五条家と悟様のためだと教えられた。
妻は子どもを作れなかったから、
呪術師の才があったが家系に恵まれなかった女を侍女に迎えた、と。
顔も、声も、名前すら知らない私の母。
私を産み、半年が経った時
夫の裏切りに耐えられなかった義理の母に殺された人。
私に呪術師の才能だけを置いて逝ってしまった。
呪術師として有望なほど、
私は五条悟の妻に相応しいと認められる。
そうすればいずれ数多いる許嫁の内に加わり、
運が良ければ五条家に嫁ぎ、ご子息を産む。
杠家の地位は格段に高くなる。
私を形作る全ては、
五条悟というあの男のためにあると言い聞かされた。
振舞い、言葉遣いから思考に至るまで、
ただあの人に気に入られるようにと。
七つの誕生日を迎え、
私に相伝の式神使いの適性が分かったとき、
私は名簿の一番上に名を挙げられた。
共に杠家は分家の末席から中枢へ。
父は喜び、初めて私の頭を撫で、褒めた。
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次に会ったのは東京校で行われた交流会。
二つ年上の貴方は、
何か暇潰しになるものを探すように私たちの前に顔を見せた。
帰り際に見たのは、
貴方の許嫁であることを理由に私を嫌う先輩と抱き合い、口付け合う後ろ姿。
張り詰めていた糸が切れたように、
途端に体の力が抜けていった。
私がこの世にある理由だった貴方は、
こんなにも軽薄で。
その稀有な瞳に私は写ってすらいないのだと思った。
五条悟の子を産み、五条家の安泰を叶えてしまえば、
私も、記憶にすらない母のように
用が済んでしまう女なのだ。
素晴らしい力と瞳を持ち、
強い者に持て囃され、弱い者を魅了する。
呪術界の将来を背負い、
牽引していく貴方は
私にとって、何より耐え難い”箍”となった。

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ウミナミ(プロフ) - 展開や丁寧な文法に魅入ってしまいました…!好きです! (2月24日 11時) (レス) id: 20cf3f5f40 (このIDを非表示/違反報告)
ぬ(プロフ) - 更新楽しみにしています! (2月2日 4時) (レス) id: bfa0e31481 (このIDを非表示/違反報告)
レネット(プロフ) - 好きです… (1月17日 16時) (レス) id: ec8ec8961f (このIDを非表示/違反報告)
酒井 - 更新楽しみにしてます! (1月14日 17時) (レス) id: a5077b13d9 (このIDを非表示/違反報告)
ほし - 新作もめちゃくちゃ好きです。無理なさらず頑張ってください! (1月13日 22時) (レス) id: 6dcdb3b145 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2021年1月13日 20時