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ぺこりとお辞儀をしてワゴンを引きながら部屋を出ようとしたところで、お料理の説明をしていなかったことを思い出して決まり悪く引き返して一通り喋ったあと、できるだけ落ち着いた足取りで厨房に戻ってきて冷蔵庫の扉にもたれかかるようにへばり付いた。
「Aちゃん?」
「ふああ、ああ…伯父さん、どうしよう、おしょくじ、まかない、うああ……あああ」
「屍?ゾンビ?」
上手く話せている自信の全くない人語でなんとかナムジュンさんに言われたことを伝えると
「待たせてるの?!早く行ってきなよ!なにしてるの!」
って伯父さんにしては珍しく焦った声で言われて、ハッとして適当な余りの賄いを手にしてペンションに向かった。
迎え入れてくれたナムジュンさんは多分照れ隠しだと思うけれどふざけて恭しくお辞儀をしてくれたりなんかして、結局なんでか二人して照れ照れしてしまった。
大丈夫大丈夫、わたしは元来不愛想な人間だから、少し調節すれば浮かれた人間には見えないはず…
「「いただきます」」
ナムジュンさんはわたしが戻ってくるまで食事には手を付けずに待っていてくれた。
「聞きたかったことがあるんですが、ここってユ作家の遺作…ですよね?」
「ああ、はい。建築物としてはここが最後の作品です」
「ご親族が管理されていると伺ったのですが、失礼でなければ、もしかして…?」
「ユはわたしの実母です」
「…!!やっぱり、そうでしたか!わあ、ご息女がいらっしゃったんですね」
母はわたしが十五歳の時に亡くなった。芸術家として生み出した作品たちは生前ほとんど日の目を浴びることはなかったけれど、亡くなってから建築物の芸術性が再評価されて家具ひとつでも何百万という値段のつくものが出てきたりした。
世間の話題になる前に亡くなったから、家族構成なんかの情報はほとんど出回っていない。
「…ふふ、秘密ですよ?」
たまに母の足取りを辿ってここを訪ねてくる美術品愛好家もいるけれど、そういう人たちには親族ですとしか答えない。
でも、彼になら正直に教えていいと思った。

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作者名:シキ | 作成日時:2025年2月17日 22時