アウトサイダーを喰らう。

7　「サヨナラの準備が完了した」 ページ7

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　母が八つ当たりでぼくらを殴った後は、いつも必ず、ごめんね、ごめんねえと謝ってきた。ごめんねえ。こんなダメな母親でごめんねえ。痛かったでしょう。そんなつもりなかったの、あなた達を傷つけたい訳じゃなかったの。ごめんね。

　ぼくはそれが何より苦手で。謝って縋りついてこられると、もう、どうしていいかわからないのだ。そんなつもりがなかったと言われても、先程あれだけ修羅の表情で殴ってきた人物を、どうして信用ができようか。



　けれど母親だった。

　一度だけ、レストランに連れていってくれて、何でも食べていいよと、ふわりと笑って、綺麗な顔で、そう──言ったのだ。




　父がイライラしていない時は、たまに麻雀のやり方を教えてくれたりした。他にはブラックジャック。世界が丸いと教えてくれたのも父だった──ぼくの学びの対象の一番は、先生ではなく、父だったのだ。小さな子供に麻雀なんて教える親はいないと思うが。

　けれど、遊んでみると、これがまた面白かった。ロンだ、と言ってぼくがあがると、笑って頭を撫でてくれた。父が頭を撫でてくれたのは、それが初めてだった。



　嬉しかったのだ。

　認めてもらえたような気がした。何度も何度も蹴られても、叩かれても、あの日確かに父と笑いあえたのだ。それだけは事実だった。




「──…………」




　ダメだ、ヤバい、もう、どう、しよう。どうしよう。頭の中がぐちゃぐちゃで、ひどくこんがらがっていて、泣きそうだ。一番最後に泣いたことなど、もうかれこれ十年以上前の話じゃなかったか。

　親だった。母親と、父親だった。大好きだった。心の底から、誰に何と言われようと、親だったから、好きだった。無条件の信頼だった。だって──それが普通だろ？ 普通、親って、嫌いになれないもんだろ？



　ああ、うう、と嗚咽を漏らす。妹もさらに泣く。


　もうダメだ、と、また思った──泣いて、しまった。辛くなってしまった。しんどいのが、もう、イヤでたまらない。無理だ。耐えられない。いつか、いつかと──愛してくれると。きっとこれから、と。

　幸せになりたかったんじゃないんだ。普通に、普通の家庭になりたかっただけなんだ。ただただ。どうしようもないほどに、それだけを願っていた。




　──幸せになりたかったんじゃあ、ないんだ。


　またああやって、笑い合えたらと。




　それだけで、良かったんだ。



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