story*137 ページ42
宏「じゃ、お茶入れてきますね。行ってきます!」
慧「行ってらっしゃい。」
重「あっ、あのっ……あぁ…行ってもーた。」
わざわざ外まで行かんでもええのにっ!とか思うたけど…それを口に出す前に、宏太くんはマグカップ2つと懐中電灯を持って玄関から外に出てってもうた。
バタンッて閉まった扉を見て苦笑いしつつ、これでホンマに暫く帰れへんわぁ…って天を仰いだら、今まで毛布に包まって大人しくしてた慧くんが俺の向かいに移動してきて、何か言いたそうに姿勢を正した。
重「…ん?」
慧「あの…重岡さん、今宏太がいないし大貴も寝かけてるし…貴方になら話しても良いと思ったので、言います。」
重「え、あ、おん…」
何か大事な話っぽくて、俺も胡座から正座に足を組み替えて姿勢を良くすると…
慧くんは一呼吸置いた後、覚悟を決めた様にゆっくりと話し始めた。
慧「さっき…市場の前で重岡さんと出会った時、僕には名字が無いと言いました。カースト最下層の人間だからって。…でも、本当はあるんです。
"伊野尾 慧"それが僕の本名です。
…僕は幼い頃から持病があって、体も弱くて…跡継ぎになる筈の長男の僕がこんなだから、恥ずかしくて先代に顔向けできなかったんでしょうね。
A級ライセンスを持つ、カースト"フラワー"の第2階級"リリー"…この国にほんのひと握りしかない上流階級の家庭から、捨てられたんです。
…僅かなお金と、少ししか残っていない喘息の薬だけを持たされて。」
重「そう…やったん…や…」
慧「…ふふ、当然ですよね。普通に生きる事すらままならないのに、父の跡を継ぐことなんて出来ませんから。」
辛い筈やのに笑みを浮かべて【自分が捨てられたのは当然の事】って言い切る慧くんやけど…
一瞬俯いて見えたその表情は、両親に捨てられた悲しさや憎しみ…家族を失って一人きりになった寂しさがごちゃ混ぜになった様な、形容し難い複雑な表情で…
それを見たら…当事者でも何でもない俺も、胸がギュッと締め付けられるように苦しくなった。
慧「父は…いえ、我が家は代々役人の家系で…曽祖父も祖父も父も、各地区の長官を務めていました。
長官になる前のただの役人でさえ、体力や精神力や頭脳が必要だったのに、こんな体でまともに学校にも通えていなかった僕には、何一つ持ち合わせていなかった。だから捨てられた。
…今ではよく理解できるんですよ、両親の気持ちが。」
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和音(プロフ) - 祐莉さん» いつもコメントして頂き、ありがとうございます(^^)これから益々物語が展開していきますので、是非楽しみにして頂けたら嬉しいです!これからもこの作品を宜しくお願い致します(^^) (2020年2月14日 23時) (レス) id: eff15bf988 (このIDを非表示/違反報告)
祐莉 - 楽しく読ませてもらってます!イースト帝国の闇は深いですね! ウエスト王国もイーストに侵略されれば同じような状況になるのは、明白だから今後ウエスト側がどう動くか気になります! (2020年2月13日 15時) (レス) id: ea9cf53e18 (このIDを非表示/違反報告)
和音(プロフ) - そらさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けると、とても励みになります!これからもこの作品をよろしくお願いします(^^) (2020年1月9日 18時) (レス) id: eff15bf988 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - 更新を楽しみにしております。 (2020年1月9日 1時) (レス) id: c08660417e (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - すごく面白いです。 (2020年1月9日 1時) (レス) id: c08660417e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:和音 | 作成日時:2019年12月28日 17時