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──そういえば、あいつは空を見ながら落ちていったんだっけ。
今見ている景色とは違うかもしれないが──同じ空を見上げて彼は息絶え、ヴァイスは息をしている。
その違いは、彼が天才でヴァイスが凡才だったからか。彼が最悪の家庭環境で育ち、ヴァイスは幸福な家庭で育ったからか。彼が、ヴァイスが、彼がヴァイスが──。
答えなど誰も出せない。ただ、紫紺、そして闇に変わりつつある空をぼんやりと眺める。──徐々に空が曇ってきて、陽が沈む頃には月も隠され、真っ暗となった。
灰色の雲の合間に見える夜色は、死者を吸い込む門に見えた。
「──なあ、政士。お前のことだからどうせ、地獄の番犬でもやってるんだろ? だから、あの時お前が来たんだろ? 分かってる分かってる、ゆっくり行くさ。うんと幸せになって、お前が出来なかったことを全部──ああ、才人になるのは多分無理だが──やってから、身体中の毛という毛が真っ白になってから、やっと向かい出すから、それまでは『犬』やってろよ。──あと、かつての上官であり、今も親友であるヴァイス・スフォルツから仕事とお願いだ」
雲間から、きらりといっとう明るい星が覗く。少し、青白い光だった。
少しでも彼に近づくよう、ヴァイスは立ち上がる。義足が、人工的で無機質な音を微かに立てた。
「どうか、昇華隊の服を来たやつが迷い込んできた時は遠慮なく追い返してくれ。知ってるだろ。明日は統一テストの結果発表日──世界で一番自死者が多い日さ。OBとして説教してやれ。凡人なりに生きてみろ、足掻いてみろって。それが嫌なら──」
びゅう、と強い風が吹いた。純白のマントが音を立てて揺れる。が、飛びはしない。
たとえ地から飛びたてなくても、彼がここにいることは充分伝わるだろう、と訴えかけるように。
「黒い服でも着て、世界を変えてみろってさ!」
再び雲が動き、星は隠れた。ただの物理現象。言ってしまえばそれだけである。
──それでも、そこに何かの意味を与えたくなるのが、人間というものなのだろう。
この、飛べない鳥が何を思ったのかは、誰も知る術がない。
ただ笑った。彼は笑った。その事実が文字として記され、それを誰かが読んだ以上──きっと、その誰かは「何を思ったのか」と思うのだろう。
文字とは、人とはそういうものなのだ。
例え、それが如何に無為であろうとも。
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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
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