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「だったら大変だな。コミュニケーションとか、手に書いたり……」
そこまで言った後、はっと気づいてヴァイスは口を押さえた。
──書いたところで意味がないのだ。密からはともかく、妹はここにいる以上は「字」を持っていない。正確にいえば、持っていてはいけないのだから。
その瞬間、急にヴァイスの中で「文字を奪うこと」の正当性が揺らぎ始めた──が、最早彼にそれを疑うことは許されない。それを否定した瞬間、彼は自分がしてきたこと全てを証明しなければならない。
自分が叶わぬ夢を追っていたことは、この兄弟の幸せよりも価値ある事だったのだ、と。
つぅっと、背中に冷や汗が流れた。
「どうしたのか」
気づけばそう言うように、ヴァイスは密に顔を覗き込まれていた。
「何でもないさ、考え事だ」
そうして、彼は笑顔の仮面を付け直す。
ふとした疑問を抑え込む蓋として。



「もう、ヴァイスさんったら『光はよくやってくれている』ばっかり! 遠慮してくれなくていいんですよ。もっとドジ話とか聞かせてください、というかそれが聞きたいです」
「あっそうだったのか! じゃあ、うーん、どれにしようかな……」
あれからしばらく経って、明は戻ってきた。彼女に誘われるがまま居間へと移動すると、中央のテーブルには湯気の上がるスープが三皿用意してあったのだ。
そして現在。すっかり食事を終えた三人は卓を囲んだまま、話に花を咲かせていた。
──ただ一人、己の恥を暴露される密を覗けば、皆笑顔で。彼は恨めしそうにじとりとヴァイスを見つめる。
「お兄ちゃん、どうせ不機嫌な顔してるんでしょ。いいじゃん、私もちょっとくらいかっこ悪いお兄ちゃんについて知りたいもん」
話していくうちに分かったことだが、どうやらこの兄妹は以心伝心、というやつであるらしい。声、文字、ジェスチャー。互いの共通言語はなくとも、不思議と彼らの間ではコミュニケーションが成り立っている。

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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年5月14日 23時

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