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──正確に言えば、凍りつかせておかないとどうしようもないのだろう。あと間もなくすれば弟も妹も帰ってくる。そんな時に、自分は笑ってなければいけない。これからの生活にも希望が見えるように。
「おい」
「何ですか」
やはり硬い声。返事も最低限である。
「教育場では、何が好きだった?」
「──えっと、よく覚えてないんですけど、虫とか」
覚えていない、というのは薬の影響だろう。それでもぼんやりと記憶があるということは、多少薬に抵抗があるという事だ。
バレたらクビ、それも物理的にかもな。
そう思ったが、まあ賢そうなこの少年のこと、秘密にしてくれるだろう、と期待して、右手を少年の額に当てた。
少年は、流れ込んできた──文字、彼が忘れていたもの。それを一度何か、と訝しみ──思い出して、ふと懐かしさを感じる。
大人になっても数日な命の蜻蛉に、夫を食うカマキリのメス。人なしでは最早生きられない蚕。
どれもこれも、彼が教育場で親しんでいたのに、忘れていたものだった。
「こういう時は、頭は情報でいっぱいにしといた方がいいんだよ。何も思い出したくないなら、新しい情報を詰め込んどきゃいいだけだ」
そこで一旦言葉を切って、ヴァイスは少年の前に立つ。
「それで、だ。えーと……」
「銘です。加賀銘」
「銘。お前、『文字』思い出したんだよな?」
「はい、まあ」
にやり、とヴァイスは笑みを浮かべた。
「でも、文字って一般人が触れちゃいけねえんだよ。どうする?」
「いや、お前のせいじゃん!」
これが彼の素らしい。敬語を脱ぎ捨て、目を見開いて言う。
「……だから来いよ、俺達の所。そしてそれを踏み台にして、叡智を探求しろ」
「え?」
訝しむ様な表情ではあったが、明らかに興味を持っている。それは、新たな未知を見つけた学者のように。
「もちろん今すぐに、とは言わねえさ。弟達のことがあるもんな。──でも、これだけは覚えとけ。お前は絶対に忘れられない。自分がかつて知を求めていたことを。これから、俺は一ヶ月に一度、絶対お前の所に行く。どこに行こうと探し当てて行く。お前の中の好奇心が止まらなくなった時はいつでも言え。歓迎するだろう。俺も、誰も彼も、昇華隊の奴は」
「出来るのかよ、そんなの本当に」
挑戦的な顔で銘は言った。
同じく挑発的な笑顔を浮かべて、ヴァイスは言う。
「ああ、俺は顔が広いからな」

「うつくしい」→←*



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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年5月14日 23時

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