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「ほーら、やっぱ笑うといい顔だなあ。アンタ、そういえば名前は何ていうんだ」
知らず知らずのうちに笑顔になっていたことを指摘される。そして、名前。名前は。
「遼太郎です。――ええと、名字は――」
「お、じゃあ遼ちゃんね。オレは五百雀新。五百雀でいいぞ」
遼ちゃん。その呼び方に、少しだけ胸が弾む。何と言うか、少しだけ女の子みたいで。
「しかし遼ちゃん。アンタ何で倒れてしまうまで頑張っちゃった? 五百雀サン、それだけはちょっと褒められねえな」
「――それは」
気が進まなかったけれど、隠す方法が見つからなかったので、詳細をぼかしながら話す。 両親が離婚したこと。家計が厳しくなって進学も難しくなったこと。その時にたまたま、文字が現れたこと。
「……あーもういい。いいぞ。それ以上は五百雀サン悲しくなっちゃう。駄目、駄目だよなぁ。子供はいつも笑ってなきゃいけねえのに。本当、罵霊が減らないわけだ」
「……すみません」
いたたまれなくなって謝ると、それもダメ、と止められる。謝罪は、きちんと謝罪すべき時以外はしちゃダメだ、と。
「うーん、まあ安心しな。LANGERSじゃそんな悲しいことにはさせないから。ほどほどに頑張って、ほどほどに気ぃ抜くんだ。そして、いつでも笑うんだ。それが、一番真っ当なやり方」
ぽん、と軽く頭を叩かれる。
「急には無理だろうが、できるようになろうな。五百雀サンとの約束」
そう言って、五百雀さんは小指を出した。
よく分からないけど、私も真似をして指を出す。
すると、五百雀さんはそこに自分の小指を絡めて歌い出した。
「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます……覚悟しとけよ遼ちゃん。オレのゲンコツは痛いぞ? ――さ、指切った!」
指が離れた瞬間、点滴の最後のひとしずくが落ちた。
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