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村「ニシ」
『はい』
信ちゃんが私の方を向いて、正座した。
私を見上げる彼の拳は膝の上で固く握られている。
真っ直ぐすぎる目が、痛いくらいに突き刺さってきた。
村「俺は、15ん時から、お前のこと好きやった」
『す………え？』
予想だにしなかった言葉に、酷い顔をしてしまった。
本当に、何を言っているのか分からなくて、返す言葉もない。
信ちゃんはそんな私を気にすることも無く、淡々と口を開いた。
村「付き合わんか」
『つきあう』
村「そうや。俺と」
『しんちゃんと』
呆然としていると、彼の眉がまた垂れた。
村「嫌か」
言葉を選ぶ間もなく、とりあえず私は頷いた。
『まあ……うん。普通に無理、かも』
案外信ちゃんはすぐに頷いて、「分かった」と立ち上がった。
村「そうか。悪かったな。急に」
『いや、ええねんけど……うん』
村「ほな、帰るわ。その気になったらまた言うてな」
『はあ……』
首を傾げる私を気にすることも無く、信ちゃんは翠をひと撫でして鞄を持つ。
村「見送りはええわ。戸締りちゃんとせえよ。グラス、流しに入れとこか」
『あ、ありがとう』
村「あいあい」
ご丁寧にローテーブルを片付けて、彼はスタスタと去って行った。
ガチャンと部屋のロックがかかる音とともに、私の脳はじんわりと稼働を始める。
いや、え？ホンマに？今、信ちゃん、私のこと好きって言ったよな？
あまりに呆気なさすぎて、もう記憶が飛び始めている。
ちょっと、待とう。一旦。思い出そう。
確か、まず初めに………ちょっと待って。15歳から好きとか言ってへんかった？
それから今までとなると。
『23年、』
ポツンと口から出た数字に恐怖を覚える。
そんな相手の告白に対して、私はテンパって「普通に無理」と言ってしまったのだ。
これはちょっとあまりにも。酷すぎたかもしれない。
慌ててスマホを手繰り寄せ、信ちゃんに電話をかける。
けれど。
スマホからは、いつまで経っても虚しいコール音が鳴り響くだけだった。
やばい。これはさすがにやばい。
驚きすぎたあまり、彼の気持ちを慮れなかった自分に憤る。
何度鳴らしても出ないものだから、私は諦めてメッセージに切りかえた。
手早く「戻ってきて欲しい。話がしたい」とLINEするも、既読はつかない。
これはリアルに傷つけてしまったやつかもしれない。
もう一度だけ、と思い電話をかけてみるも、今度は通話中音が鳴ってめげそうになった。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
