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『ぃたい』
村「そやなぁ」
『聞いてへんやろ、信ちゃん』
村「聞いてるよ」
『嘘や。そやなって言うの、2回目やで』
信ちゃんはグシグシと私の目を擦り続けた。
村「ニシ」
『なに』
村「ニシはそのままでええよ」
グレーな視界の隙間から見える丸い瞳は、ピントが合わずぼんやりとしている。
『そのままって？』
村「そのままはそのままや。意見曲げるとか、そういうの。ニシはせんでええよ」
『するつもりない』
村「そうか。ならええわ」
『なんなん。信ちゃんは曲げんの？』
ふいと彼の目が他所を向いた。
村「曲げるかもしれへんなあ」
『どういうこと？』
村「俺は弱いからな」
『信ちゃん弱ないやん。ゴリラやし』
村「うるさいわ(笑) 」
笑っているはずの顔が見えなくて不安になる。
『………信ちゃん、辞めへんやんな？』
村「何言うとんねん」
焦った声で、信ちゃんの手が彼の元へと戻っていく。グレーのパーカーの袖口は、濡れて濃く変色していた。
村「そんなんちゃうよ。ただ、まあ売れるためには色々あるやんか」
『…………変わっちゃうん？』
村「ニシの前では素のままでおるから大丈夫や」
『約束やで？』
村「俺が約束破ったことあったか？」
『ない』
村「せやろ？大丈夫や。それとな、」
入口が騒がしくなってきた。
信ちゃんはチラリとそっちに視線をやって、私の肩に手を置く。
村「ニシは気にせんと自分の好きにやったらええ。ホテル暮らしなんか、一生せんでええわ。俺が守ったる」
『うん』
村「でもな、もしなんかあったら怖いやろ？」
『怖ない』
村「俺が怖いねん」
『なにそれ(笑) 』
笑い飛ばした私と対照的に、信ちゃんは真剣な目をしていた。
村「もし、ニシがボーみたいなことなったら、俺ら生きてかれへんから。な？せめて家まで送って貰うのは徹底しよ」
『うぅーん』
村「これやったらギリギリ人生曲げてへんやろ」
『まぁ、な』
村「約束や」
『……わかった。約束交換やな』
ふと信ちゃんの頬が緩んで、肩に置いてあった手にきゅうと力が入った。
村「そやな」
「………あれ？何してんねん、オマエら」
そろそろ時間だろうか。
続々と現れる、キミちゃんとすばる。そしてお亮。
村「ニシがコーヒー奢ってくれてん」
横「俺の分は？」
村「先着1名様やったわ」
渋「ケチくさいな。嫌われんど」
離された手には、まだ、信ちゃんの熱すぎる体温が残っていた。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年8月3日 18時
