死んで花実が咲くものか (ページ33)

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『いや、え？なんで私が？』

いつも通りのはずの送迎の車の中で打診されたのは、よく分からない提案だった。

どれもこれも、事件以後、女性ジャニーズを嫌う人間が女性ジャニーズに突撃する事故が多発しているからだろそうで。

マネージャー曰く、明日からでもすぐに、ホテル暮らしを始めて欲しいのだと言う。

「とりあえずほとぼりが冷めるまで……3ヶ月だけお願いします。もう何人も後輩たちからも被害報告が出てるんです」

『それは分かるよ。後輩たちはそうさせてあげるべきやと思う。事務所がお金出してな？……でも、ウチは嫌や。そんなん、真っ向から逃げてるようなもんやん』

逃げるということはつまり、窪塚菜摘が刺されたのも仕方ないと認めるようなものだ。

私には絶対そんなことは出来ない。

犯人はあの子の歌声を、踊りを、そして幸せな日々を間違いなく奪っている。

「逃げるのも時には必要ですよ」

『そうは思わんな。だってなんも悪いことしてへんやん。逃げたいんやったら逃げればいいけど、逃げんでいい人間が逃げる必要はないやろ』

「西野さん……お願いしますよ」

運転席のマネージャーの顔が歪んだ。

そこで漸く彼の真意に気がついてハッとする。

『ジンジンに言うてもしゃーないの分かってるから、そんな顔せんで？ごめんな。けど、直接上の人に言いに行くわ。誰の指示なん？』

「……チーフです」

渋々な彼の声に思わず苦笑が漏れる。

『わかった。ジンジンの説得にブチ切れた体にしとくから。多分怒られへんとは思うけど……もしなんか言われたら私の事呼んで』

「…………西野さんはホントにいい人ですね」

『何言うてんの(笑) 』

ポンポンと軽く運転席の背を叩いて、私は車を降りた。

ひとつ年下でまだ入社したばかりの21歳。

使いパシリのように毎朝、地方公演をし終えた私を迎えに来て、毎夜、送り返す人生の中で、チーフに「説得に失敗しました」だなんて言う選択肢はきっとないだろう。

それでも私は知っている。

この世界で何年か生きて、理解してしまった。

大人なんて、言わないと何もしてくれない。だってそもそも、言っても何もしてくれないんだから。

『チーフ！おる？！』

飛び込んだレッスン室には、何やら台本をブツブツ唱える信ちゃんと隆ちゃん。そして頭を寄せあって雑誌を眺めているヤスと大倉の姿があった。