夜空に咲いた花(S.S) ページ49
生暖かい風が吹いた。
A「…さっきのどういう意味ですか？」
Aの声は微かに震えている。
末澤「そんなん、」
俺は数回瞬きを繰り返して深く息を吸った。
末澤「分かるやろ、子供ちゃうんやから」
左隣から確実に感じる視線。
だけど俺はAの顔を見ることができなかった。
もしかしたら怖いのかもしれない。
振られてしまうことも結ばれることも、どちらも。
A「…分からへん」
先程放った"Aは俺にとって特別やから"という言葉。
それはあまりにも曖昧な愛の告白。
A「はっきり言ってくださいよ、」
臆病な自分が情けない。
夏の夜はどんどん更けていく。
だけどこのベランダの時間は止まったまま。
末澤「…1回しか言わんで」
濃いネイビーの夜空。
時より瞬く星。
耳を塞ぎたくなるほどうるさい心臓の音。
末澤「す…」
言葉を紡ぐ瞬間、俺はようやくAの目を見た。
澄んだ瞳に色とりどりの光が広がる。
それとほぼ同時に響いた音が俺の声をかき消した。
A「あ、花火、」
暑い中ベランダに出ていた理由。
年に1度の花火大会が幕を開けた。
グループ結成前は殆ど関わりを持たなかった。
メンバーとして共に同じ夢を目指す中で気付いたこの気持ち。
日に日に大きくなっていくそれを伝える為には何か口実が必要で。
夜空に咲いた花を見上げる。
体に直接響く低音は心音すらも消してしまう。
夏やなあ、なんて当たり前のことを思った。
花火見ながら告白なんて少女漫画の世界でしか聞かんようなシチュエーションやなあ、とも思った。
A「…綺麗」
一瞬で散りゆく儚さに胸が苦しくなった。
A「誠也くん、」
末澤「…ん？」
A「私も好きです」
末澤「えっ？」
空からAへと視線を移す。
A「来年も再来年も誠也くんと見たいです、花火。」
次々と打ち上がる花火を横目に唇を落とした。
俺は何に怯えていたのだろう。
幸せを掴んだ今となっては分からない。
末澤「…オフやったらな」
A「現実的なこと言わんといてくださいよ、」
末澤「しゃあないやん、現実やもん」
幻想的な花火の美しさに魅せられて忘れそうになるけれど、これは夢のような現実。
今後窮屈な思いをすることだっていくらでもあるだろう。
それでも俺は今日見た景色を忘れない。
この先ずっと―
Fin
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わさび醤油(プロフ) - kkさん» 最後まで楽しんで頂き、こちらこそありがとうございました！今後も読んで頂けるように頑張ります！ (2022年8月17日 16時) (
レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - 紅一点設定の短編集ずーっと楽しく読ませて頂きました！たくさんの素晴らしいお話をありがとうございました😍また新しい作品も楽しみにしています💕 (2022年8月17日 1時) (レス) @page50 id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
わさび醤油(プロフ) - なつきさん» ありがとうございます！次の作品もお楽しみに…！ (2022年8月16日 9時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
なつき(プロフ) - 素敵なストーリーをありがとうございました。新しい作品を楽しみにしています！ (2022年8月16日 1時) (レス) @page50 id: 292579ac7e (このIDを非表示/違反報告)
わさび醤油(プロフ) - とんとんまるさん» 素敵なコメントありがとうございます！とっても嬉しいです。今後のお話もお楽しみに…！ (2022年8月13日 6時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年7月13日 2時
